日本銀行の仕組み ~通貨発行益について~
2020/05/02
私たちは毎日お金を使って生活していますが、お金ってどうやって発行されているのでしょうか?その仕組みについてこの投稿で取り扱っていきます。
目次
通貨発行益とは
1万円札の発行は日本銀行が行っています。
お金を発行して得られる利益のことを通貨発行益(seigniorage/シニョリッジ)と言います。しかし、通貨発行益は存在しないと説明されているものを良くみかけます。
無から1万円が生まれるので、1万円を発行すれば1万円の利益が得られるのが当然だと思いますが、利益は出ないという説明がされているのです。
ネットで見られる間違った説明
ネットなどでは、次のように説明されていることが多いです。
- 政府が指示を出して、日本銀行が1万円札の印刷手続きを進める
- 1万円札を印刷するのに20円程度の費用がかかる。差額の9,980円が通貨発行益になると勘違いしている人が多いが、本当はそんな利益は生じない
- 理由としては、日本銀行は1万円札を印刷してこれを手に入れる代わりに、1万円分の借金を背負うから(貸借対照表の負債の部に1万円札を手に入れた分と同じ金額が計上される)
上記説明は表面的には正しいですが、実質的には間違っているので、どこがどう間違っているのかをこの投稿で説明していきます。
お金を刷っても儲からない?
1万円札を発行すれば1万円の儲けが出ます。
儲からないと言っている人は、日本銀行が1万円札を発行すれば、それに伴って日本銀行が1万円の負債(借金)を負うからだという説明をします。
しかし、この1万円は返済期限のない負債です。つまり、返さなくて良いお金なので負債(借金)ではありません。
つまり、返さなくて良いお金なので1万円札を発行すれば、1万円の利益が得られます。
例えば、私たちが金融機関から1万円を借りたとします。この借金には利息が無く、返済期限も無いと言われた場合どうでしょうか?1万円を金融機関から借りたという事実は残りますが、この条件であれば1万円をもらったというのと何ら変わりがありません。
日本銀行が1万円札を発行するということは、これと同じことです。
専門用語を使った説明(難解なので金融の専門家でない人は読み飛ばしてください)
日本銀行が1万円札を発行すると、負債の部に1万円が「現金」という勘定科目で計上される。この負債は返済する必要がないため、株式よりも資本性が高い性格を有する。というのも、株式は配当や自社株買いによって株主にお金が還元されるが、この1万円発行に伴う負債は誰にも還元(返済)されないため。つまり、株よりも返済順位が低いため、株よりも資本性が高い。
1万円札の発行は資本性が高いため、利益計上して利益剰余金に計上するか、純資産直入する方法をとる方が会計の考え方に合致している。
通貨発行益が生まれるまでのお金の流れ
日本銀行がお金を刷ってもうけを出すのは次のような流れとなっています。
日本銀行が民間の金融機関から国債を買い取る(これを買いオペレーションと言います)
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民間の金融機関には、国債を売ったお金が日銀に開設してある預金口座に振り込まれる(この行為で、無からお金が生み出されます)
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民間の金融機関が日銀の預金口座からお金をおろす。日銀の負債の部は「預金」から「現金」に変わる(つまり、日本銀行は預金の引き出しに対して通貨発行で応じます。これが通貨発行益の正体です)
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日本銀行が保有している国債が満期を迎える
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日本銀行が、この満期を迎えた国債のお金を使って、新たに発行される国債を購入する
(参考:日本銀行ウェブサイト「(b)償還期限が到来した国債等の借換えのための引受け」)
この一連の流れで、お金や国債はどのように動いたでしょうか?
- 民間の金融機関は国債を売って、現金を手に入れる
- 日本銀行は国債を手に入れる
- 政府が発行する国債残高に変化はない
日銀の資産は政府が持っているのとほぼ同じことを意味するので、それを加味すると、一連の流れは次のように整理されます。
(日銀が持っている資産は、国が持っているのとほぼ同じと言える理由は、次の投稿をご覧ください。日本銀行の仕組み ~上場企業としての日本銀行~)
- 民間の金融機関は国債を売って、現金を手に入れる。
- 政府/日本銀行は、国債残高を減らす
つまり、政府は現金を発行して国債の残高を減らしていることになります。
では、国はお金をどんどん刷って、国債残高を減らせば良いのではないかという疑問も生じるかもしれません。
この点についてはインフレ税がかかってしまうというデメリットがありますが、詳しくは以下の投稿をご覧ください。