下村博文議員が9月入学を推している理由
下村議員が9月入学を推している様ですが、合理性のある説明を見つけることが出来ませんでした。つまり、本当の理由/目的が別にあるというのが私の仮説です。そこで、下村議員が9月入学推しである理由を調べてみました。以下順を追って説明します。
目次
下村議員の主張
下村氏の公式YouTubeチャンネル、国会議事録、新聞報道等から、同氏はどういった主張をしてきたのかを以下の通りまとめました。尚、元データを確認されたい方は下記の「(ご参考)9月入学に関連する下村議員の発言集」をご覧ください。
- 2012年頃は大学のみを9月入学に移行させる案を推進していた。高校までは従来通り3月に卒業させ、大学の入学は約半年遅らせて9月に入学させるというもの。高校を卒業し大学に入るまでの間(ギャップターム)を有効活用し強制的に社会体験を積ませることを提唱。社会体験の一例として自衛隊の体験入隊に言及している。国会や自民党公式YouTubeチャンネの「Cafe Sta」等複数の場所で自衛隊の体験入隊を社会体験の一例として挙げている。様々な社会体験がある中で、あえて自衛隊に言及しているのが何度もあることから、下村議員の本心として、自衛隊への体験入隊を強制させたいという思惑があると推察するのが合理的
- 文部科学大臣であった2013年~2015年頃も引き続き大学のみの9月入学を推進。ギャップタームを活用して各種「体験」を学生に積ませる仕組みを模索していた。また、知識詰め込み型の大学入試制度の改革や、アクティブ・ラーニングの普及にも取り組んでいる。2020年5月26日の自身の公式YouTubeチャンネルでは「オンライン授業の普及で個々の能力に応じて学べると、学習時間がこれまでの半分で済む」という趣旨の発言もしている。以上のことから、下村氏は、教育改革に真剣に取り組んでおり、オンライン授業について熟知していると推察するのが合理的
- 2020年5月に下村氏の公式YouTubeチャンネルやテレビ番組で、9月入学を導入すべきとの持論を展開。義務教育は7ヶ月早めて9月入学にする案を提唱。過去に下村議員が唱えていた9月入学は半年間後ろ倒しにするというもの。今回は取って付けたように半年間前倒しにすると主張している。一貫性が無く別の目的があると疑わざるを得ない。9月入学を導入すべきと考える理由として、オンライン授業を普及させることと、休校が長引いた場合の授業時間の確保と説明している。しかし、9月入学を導入するとオンライン授業が普及するというロジックはそもそも成り立たない。休校が長引いた場合の授業時間の確保であれば、半年遅らせる9月入学の案を推すべきであり、7ヶ月早める9月入学案と相反する。そもそも、休校が長引いた場合の授業時間の確保のために9月入学を導入すると、オンライン授業に頼らなくて良いという風潮が蔓延し、かえってオンライン授業の普及を阻害すると考えるのが合理的。2012年頃の主張や2013-2015年頃の取り組みと比較して、2020年の主張は論理破たんが著しいことがうかがえる。以上のことから、2020年5月に推奨している9月入学は、別のことを目的としていると考えるのが合理的
主張の妥当性/代替案の考察
以上見てきたように、下村氏の過去の発言からは以下の通りであると考えるのが合理的だと私は思います。
- 下村議員の本心として自衛隊への体験入隊を強制させたいという思惑がある
- 教育改革に真剣に取り組んでおり、オンライン授業について熟知している
- 2020年5月に推奨している9月入学案は、オンライン授業の促進やコロナ対策ではなく別のことを主目的としている
政治家が次善の策として別目的の政策を推進することは往々にしてあると思います。こういった行為は問題の本質についての議論がないがしろにされる点が問題だと私は考えます。
様々な事情から次善の策を講じざるを得ない場合もありますが、9月入学は子供たちの負担や社会的コストが導入によるメリットに見合わず、代替策で十分間に合うというのが私の考えです。これについて以下説明します。
(A)自衛隊の体験入隊について
問題の本質は、下村議員が感じている日本の安全保障に関する危機意識と、国民が感じている危機意識に差があることだと考えます。
もし、そういった危機意識を下村氏が持っているのであれば、マスコミ等を活用してその危機的状況にあることを情報発信すべきです。それによって他国から経済制裁をくらうというリスクがあるのであれば、欧米諸国のマスコミを使って情報発信するやり方もあります。少なくとも積極的に探さなければそういった情報が得られない状況になっているのは政治の怠慢だと私は考えます。
賛否両論あると思いますが、現時点において大学入学を希望する全学生に自衛隊に体験入隊させることについて私は反対の立場です。一方で、日本の安全保障に対する危機意識が希薄な点は解消すべきだと考えています。
マスメディアで報じられる機会は少ないですが、日本の安全保障が脅かされていることについて、私なりにまとめていますので、興味のある方は以下の投稿をご覧ください。
(B)オンライン授業の推進について
下村氏は文部科学大臣を務めた経験もあり、オンライン授業について熟知していると思われます。実際、「(オンライン授業によってこれまでの集団教育から脱却し)個々の能力に応じて学べるようになると、学習時間がこれまでの半分で済むという統計データがある」という説明もしています。
現在、休校のために授業を受けられない子供たちが数多くいます。その対策として双方向のオンライン授業ではなく、先生方が教科書を解説した動画を配信すれば、対面式授業の代替になるというのが私の考えです。更に、動画配信であればDVDで配ることも可能なので、通信設備の無い生徒達も受講可能です。この方法であればインフラ整備コストは殆どかからず、即対応することができます。下村議員がこういった対策を推進していない点は意図的であると感じざるを得ません。
動画配信型授業が普及していない理由と、その解決策について私なりの考えを纏めていますので、興味のある方は是非以下の投稿をご覧ください。
(C)別目的の9月入学について
下村氏が9月入学を推している理由は、コロナ対策でもなければオンライン授業の推進でもないと考えるのが合理的という点は以上述べた通りです。
恐らく、日本の安全保障に対する危機意識が高く、自衛隊の強化を進めたいというのが本心だと推察しています。日本の安全保障を確固たるものにするために対応が必要というのは私も賛同できますが、そのやり方として強引に9月入学を導入することには疑問を感じざるを得ません。
現状下村氏は、義務教育を9月入学にする案を提唱している様です。しかし、例えば大学はこれまで通り4月入学とし、高校までは9月入学にすることで高校卒業~大学入学までにギャップタームを作り出し、その間自衛隊の体験入隊をさせるといった案を、今後下村氏が出してくる可能性も考えられます。
または、オンライン授業の普及によって授業の時間が短縮でき、余った時間で多様な社会体験活動(実質的には自衛隊の体験入隊)を高校在学中に義務付けるといった案が出されることも想定されます。
今後の下村氏の動向は注視しておく必要があろうかと存じます。
(ご参考)9月入学に関連する下村議員の発言集
これまでの考察の元となったデータ等を紹介いたします。
下記記事では以下のことが考察できます。
- オンライン授業を推進しつつも、オンライン授業は対面式授業の代替とはならないという前提に立った主張となっており論理破たんしている
- 動画配信型授業では不十分であり、双方向型オンライン授業の普及が必須であるという主張とも考えられる。つまり、双方向型オンライン授業の普及には時間がかかり、対面式授業の時間を確保しないと教育の提供が出来ないという主張とも解釈できる。もしそうであるならば不勉強と言わざるを得ない。スタディサプリ等動画配信型授業を実際に体験することを強く推奨したい
入学時期を秋にずらす「9月入学」について「(新型コロナウイルスの)第2波、第3波がどれぐらい広がるかという状況を見ながら、9月入学前提で来年は準備をしておいた方がいい」と述べた。賛成の立場から政府に対し、2021年の導入に向けた検討を進めるよう求めたものだ。
下村氏はまた、小学校の入学時期について「(4月からその年の9月への)後ろ倒しでなく、再来年以降は(4月からその前年9月への)前倒しに変えた方がいい」と指摘。義務教育の開始年齢を再来年から7カ月早めることを提唱した。
出典: 「9月入学」前提に準備を 自民・下村氏、就学年齢の前倒し提唱(2020年05月27日) 時事通信社より一部抜粋
下記動画の要点は以下の通りです。
- オンライン学習が出来ている学生は5%しかいないと言われている
- 中学2年の数学の授業で30名のクラスだとしたら、10名程度が丁度良いレベル。オンライン授業はこれを解決できる(浮きこぼれと落ちこぼれを同時に解決できる)。個々の能力に応じて学べると、学習時間がこれまでの半分で済むという統計データがある
- オンライン授業を進めるために9月入学を活用するという主張
- 9月入学にしないとオンライン授業が進まない前提で話をしており、合理性のある説明となっていない
出典: 『これまでの教育の延長線上に、未来はない!?』羽鳥慎一モーニングショーで『9月入学』について語ります(2020/05/26) 博文チャンネル 下村博文
下記動画の要点は以下の通りです。
- 9月入学導入に関する説明動画。学びの保証のためのガイドライン作成の必要性や、オンライン学習対応の必要性、9月入学に向けた各種課題整理が必要と説明
- 9月まで休校のところについては、事実上の9月入学となる状況になるという危機意識を説明
- オンライン授業を推進する一方で、オンライン授業では対面式授業の代替にはなり得ないという前提にたった説明となっており論理が破たんしている
出典: 9月入学について(2020/05/14) 博文チャンネル 下村博文
以下は下村氏が文部科学大臣であった時の動画であり、「知識詰め込み型である大学入試制度の改革、アクティブ・ラーニングの推奨、問題解決能力の育成を重視した教育」等を訴えています。
出典:なぜアクティブ・ラーニングが必要なのか~下村博文・文部科学大臣 2015/06/16 GLOBIS知見録
以下は下村氏が文部科学大臣であった時の記事であり、大学のみの9月入学導入と、高校卒業後のギャップタームの活用の有用性を訴えています。
グローバル人材の育成で留学キャンペーン
19番目はグローバル人材の育成関係だが、これは日本人の海外留学支援をしていきたいと考えている。意欲と能力のある若者全員に留学機会を付与するため、学生の経済負担を軽減するための新たな仕組みづくりの検討をする。官民一体で留学キャンペーンを推進する。
2020年までに、大学生と高校生の留学生数を倍増したい。これは奨学金のような形で、希望すれば留学できる。合わせて大学の国際標準に合わせるために9月入学をシフトする大学についてバックアップしていきたい。9月入学だと半年間のギャップタームを、例えば海外に留学する学生については、できるだけ全額支援をすることで応援をしたい。このために、特に若手のベンチャー上場企業30社くらいにお願いをしたら、資金を出して協力してもらえる。つまり企業にとっても国際感覚、語学だけではないが国際感覚を持ってたくましく生き抜く能力がなければ使い物にならない。民間が出資する制度を組み合わせることで、官民ファンドでの支援をしていくところも増えていく。是非ご出席されている皆様のところでも、海外留学の支援をして頂きたい。
出典: 第7回政策首脳懇談会(2013年8月26日) 一般社団法人日本MOT振興協会より一部抜粋
以下の国会議事録では、大学のみの9月入学を導入させ、高校卒業~大学入学までのギャップタームに自衛隊の体験入隊を推奨する発言が記録されています。
○下村委員 このことについては私は韓国を見習うべきだというふうに思っておりまして、つまり、韓国は歴史については、検定からこれはもう国史にして、国定教科書にしているわけですね。しっかりとした歴史認識を子供たちにきちっと正しく韓国の立場で教えるということについては、我が国も大いに参考にすべきだというふうに思います。
ちょっと時間がなくなってしまったので、質問が相当残ってしまっているんですが、一つだけ、九月入学について。
これは自民党でも、前の参議院選挙のときから九月入学について提案をしておりました。東大が最終報告をしたことによって、今、七つある旧帝国大学を含む、早稲田、慶応等十一有力大学との間で、秋入学の実施を協議する組織をつくって具体的に進めているということでありまして、私は一気にこれを進めるべきだというふうに思っております。
あわせて、我々自民党では、三月高校卒業、その間の六カ月間、ギャップタームですけれども、この間に、海外青年活動や、福祉、ボランティア、あるいは自衛隊の体験入隊等、できたら労役的義務的なものを選択制ですけれども課したりしながら、若者たちに、受け身ではなく積極的に、前向きに生きる姿勢を身につけてもらう、みずから力強く前向きに生きる、そういうギャップタームをいろいろな体験の中から経験させるということもあわせてすべきではないかというふうに思っておりますが、これについての見解をお聞きしたいと思います。
出典: 衆議院第180回国会 文部科学委員会 第3号(2012年4月18日)より一部抜粋
下記動画の要点は以下の通りです。
- 現状の4月入学では、海外留学をする日本人は1年遅れてしまう。この対策として9月入学を導入する
- 3月に高校を卒業し、9月に大学に入学するまでの期間で社会体験活動をさせる。この体験を積むことを大学入学の要件とし、大学入学を希望する学生に強制的に社会体験活動をさせることが期待される。社会体験の例として、福祉活動、ボランティア活動、自衛隊体験、消防署体験に言及
出典:「Cafe Sta」下村博文衆議院議員「東大秋入学について」語る(2012.1.25) 自民党公式YouTubeチャンネル