オンライン授業の論点整理 ~導入の障害と解決策~

      2020/06/10

新型コロナウイルスによってオンライン授業について頻繁に取りざたされるようになりました。そこで、この投稿では休校中の授業遅延の挽回をどのように行うのが良いのかについて私なりの意見をまとめました。さらに、オンライン授業導入を阻んでいる法令上のハードルやその解決策についても紹介しています。

この投稿で各種論点整理の一助となれば幸いです。さらに、何故か9月入学を推しているマスコミの偏向報道を多少なりとも修正できればと期待しています。

結論をまとめると以下の通りです。

  • 教科書の著作権がオンライン授業導入のハードルとなっている
  • 中長期的にオンライン授業導入を目指すなら、検定教科書については著作権を認めない条文を著作権法で定めるべき
  • 休校明けの授業再開は、積み重ねが必要な科目(算数、理科)については、もう一度最初のページから対面式授業を始める。その他の科目についてはオンライン授業の続きから始める。こうすることで補修時間を抑制し、学習の遅れを早期に取り戻せる
  • オンライン授業は、正式な授業として認めても良いという手当てが文科省で既になされている。休校が長期化しても進級は可能

尚、この投稿では義務教育である小中学校に関する教育制度という前提で書いています。

以下順を追って説明します。

目次

理想的な教育制度について

生徒の能力は個々人で違います。そのため、教室に30~40人の生徒を詰め込み、一人の先生が教えるという形態は生徒にとってみれば非効果的/非効率的と言えます。理想論を言えば、生徒一人一人の能力に応じて授業が提供されるのが良いと言えます。しかし、生徒一人につき教師一人を付けることは費用がかさみ過ぎて不可能です。この問題に対しては解説動画を使った授業というやり方で対処出来ます。動画を見ているだけだと身につかない科目(体育、音楽等)はこれまでどおりの授業を行うという対応が考えられます。

私が考える理想的な教育制度の概要を纏めると以下の通りです。詳細は理想的な教育制度とは?をご覧ください。

  • 小中学校では集団教育を学ぶ場所と位置付け、習う科目は体育、音楽、美術、道徳、グループディスカッション等の授業をメインにする
  • 国語、数学、物理、化学、社会等の科目については、録画された動画講座を用意しておき、生徒が自分のペースで自習できる環境を整える
  • これらの動画はネットで誰でも自由に見られるようにしておく。学校でも自習室を設けて、そこで見られる環境を整える
  • 動画で講師を務めるのは、その科目で最も評判の良いカリスマ講師のものを使う
  • 定期テストで一定水準の点数を取った生徒は、動画視聴による自習で履修したとみなされる
  • 定期テストで一定水準に満たなかった生徒は、学校の先生の授業を受けることが強制される。一定水準の点数を取った生徒も、学校の先生の授業を受ける選択を取れる

こういったやり方をとれば、①学びの早い子はどんどん先に進めることができ、②学びの遅い子も自分のペースで勉強でき、③自主的に勉強できない子は対面式授業を受けさせることで学ぶことができ、④体育等の同年代で一緒にやった方がよい授業はそのまま継続でき、⑤教師の数を大幅に削減できるためコスト削減ができる、といったメリットがあります。

この方式に直ぐに移行が出来なくても、中長期的にはこれを目指すべきだと私は考えています。新型コロナ対応で今すぐに取り組まなければならないのはオンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)ですが、その導入について対処すべき課題について以下で説明します。

オンライン授業導入の弊害

理想的な教育制度の実現には、動画講座を準備しなければなりません。ちなみに、殆どの報道では「オンライン授業」として先生と生徒がスカイプ等で双方向のやり取りすることを前提としていますが、双方向のやりとりは基本的に必要ありません。先生が教科書の内容を一方的に説明している動画を見るだけで、各科目の勉強は十分出来ます

動画をネットでも見られるようにしておけば、生徒は自宅にいても分からない箇所を何度も見直すことが出来るというメリットもあります。このようにオンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)を導入する弊害としては、教科書の著作権がもっとも大きい様です。

弊害1:教科書の著作権

学校で使用される教科書は、文部科学大臣の検定に合格したものを使用しなければなりません。殆どの教科書は民間企業が出版しているため、オンライン授業でそれらを使うと著作権の問題が生じてしまいます。

2020年度に限っては、新型コロナ対応として学校の先生が自分の生徒に限定して配信する場合等に限り著作権に抵触しないといった法的手当てを急きょしています。しかし、折角動画を作っても、担当してない生徒が見てはならない制度設計になっています。これではオンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)が普及するとはとても思えません。著作権の詳細については動画配信の普及を加速させる方法をご覧ください。

弊害2:教育委員会の資質

学校の現場にいる教師達がオンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)をやりたかったとしても、各地域の教育委員会から様々な制限が課せられています。例えば、学校ではパソコンを自由にネットにつないで使えなかったりします。生徒たちの膨大な個人情報をとり扱っていることもあり、教育委員会としても制限を課しておいた方が安心という背景もあります。

そもそも教育委員会の方々がITについて詳しくなく、且つ自分たちにしてみれば、規制を緩めることで給料が上がるといったメリットは何もないので、規制を緩める動きが活発化しないという背景もあるようです。更に、著作権の問題まで絡んでしまうと、とりあえず「動画配信はするな」と現場の教師たちに指示を出してしまう結果になることは容易に想像がつきます。

(ご参考)【休校中、広がる地域間格差】教育委員会、校長はどっちを向いて仕事しているのか?(2020年4月17日 妹尾昌俊 Yahoo! Japanニュース)

従来の著作権法は、教員と子どもが実際に対面する授業で著作物を複製して使うことや、その様子を離れた場所に中継することは認めていた。著作物の内容を遠隔授業でネットなどで配信する際は著作権者から個別に許諾を得る必要があった

改正著作権法は2018年5月に成立した。一定の補償金を「授業目的公衆送信補償金等管理協会」(SARTRAS)に支払えば、無許諾で著作物を利用できる仕組みにした。3年以内に施行する予定だったが、補償金の額などを巡って関係者間で協議が続き、制度開始にメドが立っていなかった。

新型コロナの感染拡大による休校が都市部を中心に長期化することが懸念される中、文部科学省は地域によって教育格差が出かねないと懸念。遠隔授業の導入を学校側に促すため、同法施行を急ぐことにした。SARTRASも新型コロナ対策として20年度に限り、学校側から補償金を徴収しない特例措置を導入することを決めた

政令決定を受け、同省は遠隔授業を始める上での具体的な支援策づくりを進める。まず無償で利用できる著作物の範囲を示す。関係者によると、教科書や資料集などの大半は無償で利用できる見通し。一部の計算ドリルや問題集については対象外とする

出典: 遠隔授業で教科書利用可能に 改正著作権法、28日施行 (日本経済新聞 2020年4月10日より一部抜粋)

二つの弊害を乗り越える方法

教科書の著作権は出版社が持っているものもあれば、教科書内で使用されている図、文学作品の一部等はその作者等が著作権を持っている場合もあります。。使用許可や使用料支払いの手続きはとても煩雑なので、オンライン授業で使用できるようにするには法律を改正するのが現実的です。実際、著作権法第35条でこういった煩雑な手間がかからない手当てがなされています。

そこで、著作権の問題を解決する方法として次の2つが考えられます。

  1. 文部科学省が教科書を作成する
  2. 検定教科書については著作権を認めない条文を著作権法で定める

1.の方法は、既に教科書ビジネスを展開している民間企業の業務を圧迫することに繋がります。更に、「教科書の著作・編集を民間の発行者に委ねることにより,著作者・編集者の創意工夫が教科書に生かされることを期待する」という目的が損なわれてしまいます。従って、これはあまり良い方法とはいえなさそうです。さらに、文科省が出版権を持っていたとしても、教科書内の図や絵等に第三者の著作権が絡んでいることが往々にしてあります。

(ご参考) 文部科学省 教科書Q&A

2.の方法は民業圧迫にもならず、良い方法だと私は考えます。教科書の出版社の事業内容を見てみると、教科書の冊子の販売の他、授業の補助となるツールの製造/販売を手掛けている会社が多い様です。教科書自体を解説する解説動画の販売をしている会社は私が調べた限りではありませんでした。つまり、教師等が教科書を使って授業動画を配信したとしても、出版社の既存事業を圧迫する可能性は極めて低いと言えます。

2.の方法により著作権の問題を解決できれば、後は文部科学省が各教育委員会に動画配信の細かいルールを指示しさえすれば、オンライン授業の導入が急速に進むと思われます。

教師自身の肖像権という課題もありますが、そもそも教師自身が自分で動画をアップロードするのであれば、肖像権をもっている本人がその権利を放棄しているという立て付けにすればよいだけです。

生徒が動画に入り込んだりするといった問題については、生徒がいない教室で教師が動画を撮れば済む話です。

因みに、小学校の算数の教科書は6種類あります。ということは、それぞれの教科書を担当している何千人/何万といる教師の内、たった6人が解説動画を作ってくれるだけで全てのコンテンツがそろうことになります。社会的使命感から動画制作に手を上げる教師を探すのはとても簡単だと思われます。

著作権の問題がクリアになっていれば、学校の教師が動画を制作する必要性さえありません。塾のカリスマ講師が副業でやることも可能です。優れた動画が作成された場合、政府がそれを買い取って文科省の公式ウェブサイトに掲載させるという使い方も出来ます。

以上のようにやれば、全学年、全教科の動画コンテンツをそろえるのにそれ程時間はかからないと思われます。

オンライン授業導入の具体的方法 ~憲法対応~

憲法第26条第1項では「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定められています。

この定めを守るためには、以下三つのことを決める必要があり、文科省としてもコロナで対面式授業が出来ない中でこの対応策を検討されていることと存じます。

  1. 全ての国民が教育を受けられる手段の確保
  2. 能力に応じた教育を提供する手段の確保
  3. 「教育」としてどのレベルまで学ぶ権利があるのかという水準の決定

以下順を追って説明します。

1. 全ての国民が教育を受けられる手段の確保

対面式授業が出来ないため、現状をオンライン授業に大きく依存せざるを得ない状況が続いています。しかしながら、パソコンや携帯を持っていなかったり、パソコンを兄弟で使いまわすため十分な時間を確保できなかったり、データ通信量の上限に達してしまい一部の授業しか受けられなかったりといった子供たちもいます。このような子供たちも授業を受けられるようにするには、例えば学校のパソコン室を活用したり、パソコン等の通信機器を無料で貸し出したり、通信環境が無い子供たちだけ学校で授業を受けさせてあげたりする方法が考えられます。

2. 能力に応じた教育を提供する手段の確保

多くの先進国では飛び級や留年制度がありますが、日本の義務教育課程で飛び級はなく、留年が限定的に認められているという状況です。わが国の義務教育では年齢で自動的に進級する「年齢主義」が採用されており、「同じ年齢は同じ能力」であるというくくり方にしています。

オンライン授業の導入が進めば、個々人が自分のペースで授業を進めることができるため、真に能力に応じた教育を受ける機会が広がることができ、憲法の精神を今まで以上に厳格に順守することが期待されます。

3. 「教育」としてどのレベルまで学ぶ権利があるのかという水準の決定

国策として義務教育を卒業する中学生の教養がどの程度の水準まで達すると期待するかについては、まずは識字率(読み書き)を100%に近づけるという点が挙げられます。識字率が低いと政府が国民に何かを伝えたいときに、文字が読めない人に対しても伝えなければならないため莫大なコストがかかってしまいます。

(識字率に関するご参考)教育国債でFランク大学が延命される

算数(少なくとも足し算と引き算)も必須だと私は考えます。人口の大半が足し算や引き算が出来なければ、詐欺が横行し膨大な社会的コストがかかってしまいます。

更に、政治や歴史を学ぶことも重要です。あまりマスコミでは報じられませんが、フェイクニュースや工作活動によって海外の世論を操作し他国が自国になびくようにする動きがいたるところで行われています(こういった活動のことをシャープパワーと言います)。こういった活動に騙されない様にするには、歴史や政治を学ぶことがとても大事です。もしフェイクニュース等で騙されてしまうと、間違った世論が形成され、不適切な政治家が当選し、間違った政策が実行されます。それによって日本が弱体化し、他国の属国となるリスクも十分に考えられます。

(ご参考)シャープパワーとは ~中国、ロシアの事例紹介~

以上見てきたように、識字率、算数、歴史、政治は最低限度身に付けることが必要だと考えます。

新型コロナの影響で対面式授業からオンライン授業で代替せざるを得なくなってきています。そのため、今後は教育としてどこまで学ばせるべきかという議論も出てくると私は予想しています。

(ご参考)勉強はする必要があるのか?

オンライン授業導入の具体的方法 ~休校明けの対応~

コロナの影響で休校がどの程度続くのか分からない状況です。更に、一度学校が再開してもまた休校となる可能性も十分にあります。このような状況下で、制度上定められた履修内容を年度内に消化するためにどう対応すればよいかという課題に直面しています。これに対する私の考えは以下の通りです。

  • 積み重ねが必要な算数(数学)、理科については、休校明けでも最初のページから授業を始める。これによって、授業についていけない学生を極小化させる。また、自分で勉強してきた学生に対しては、授業中の自習を認める
  • その他の科目については、オンライン授業で対応されている部分は学んだものとして、休校明けの対面授業ではその続きから始める。オンライン授業を活用できなかった生徒に対しては、各学校のパソコン室で収録済みの動画で学べる場を提供する

読売新聞の報道によれば、今回の学習の遅れを2-3年かけて取り返す策も検討している様ですが、上記の様な対応をとれば、2-3年もかけず、うまくいけば年度内で取り戻せるのではないでしょうか

【独自】授業やり残し、学年をまたいで繰り越しへ…小中学校の学習遅れに特例(2020年5月13日 読売新聞)

 (余談)進級に必要な授業時間の制度改正

小中学校では「このくらいの授業数をやってください」という基準が定められています。これを標準授業時数といいます。オンライン授業はこの標準授業時数にカウントされませんが、対面で行った授業時間が標準授業時数に届かなくても問題ないという「学校再開ガイドライン」を文部科学省は既に発表しています。更に、下記4月10日の文部科学省の通知でも進級について「柔軟に対処するべき」と発表されています。

一方で、文部科学大臣からは「小中学校では、学校に全く来ないで(オンライン授業のみで)進級というわけにはいかない」という趣旨の発言がされています。この発言は、オンライン授業では履修したことにならず、義務教育で留年しなければならないとも読めます。

一見すると上記文科省の通知と大臣の発言は矛盾している様にも思えます。両者の説明を良く読んでみると結局のところ「オンライン授業を正式な授業時間として直ちに認めてしまうと学校に全く来なくなるといった極端な例が発生してしまう。これは避けたい。一方でコロナ対応としてオンライン授業の活用で生徒たちの学習を少しでも進めていきたい」というのを目指していることが垣間見られます。

5.各学年の課程の修了及び卒業の認定等について

新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い、やむを得ず学校に登校できない状況にあった児童生徒について、各学年の課程の修了又は卒業の認定等に当たっては、弾力的に対処し、その進級、進学等に不利益が生じないよう配慮すること。

出典: 新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い学校に登校できない児童生徒の学習指導について(通知)(2020年4月10日 文部科学省)

記者)

一つフォローさせてください。先週の未来投資会議で、同じ授業時数について、文部科学省に対して要請というか要求がありました。これはAIの教材とかを使うと、これまで定められている授業の時数よりも短い時間で単元が済んでしまいます。それにつきまして、現在の学校教育法の規則ですと、学年を超えて先に進むことができないということになっています。これも柔軟に見直してほしいということが未来投資会議から文部科学省のほうにされています。これについて、具体的にどういうふうに対応なさるのかという点と、これはなかなか微妙な点がありまして、日本でずっと認められていないような飛び級みたいなものまでもしかすると話が広がる可能性もあるかと思うんですが、そうしたことも含めてご見解を伺えればと思います。

大臣)

今、それらについては中教審で様々な議論をしている真っ最中です。未来投資会議からは、少し尖った提案があったことは私も承知しておりますけれど、例えば、今回のコロナの事態を受けて、大学や高等学校における遠隔授業などは、多少、今までの要件を緩和をして、授業時間の、今頭打ちをしていましたけれど、そこは少しカウントを広めにとろうということは認めていきたいと思いますけれども、少なくとも義務教育の小学校中学校においてはですね、直ちにこのオンラインでやったものについて、特別な査定をするとか、あるいは結果としてですね、学校には全然来ていないけれども、家庭学習で十分クリアできたからということを前提にですね、進級やあるいは飛び級なんていう事態になりますと、これはちょっと本来の趣旨とは違ってくると思いますので、義務教育機関までの対応と、それから高等学校や高等教育機関での対応というのは少し考えて、冷静に考えてみたいと思います。いろんなことを見直すいいきっかけにはなると思うんですけれど、直ちにこの混乱の中で制度を変えていくということを早急にやるということは、結果として大きな、言うならば誤解や過ちを生じることがあると思うんで、そこは慎重に、中教審などとしっかり議論しながら進めていきたいと思っています。

出典: 萩生田光一文部科学大臣記者会見録(2020年4月10日)

オンライン授業導入の具体的方法 ~生徒の属性別対応~

子供たちの教育は、日本の将来のためにととても重要です。そして、オンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)でも埋められない学びの空白をどう手当てするのかが最大のテーマです。

休校明けの授業再開時は、この空白を手当てするやり方として①教科書の最初のページからスタートする方法、②オンライン授業で学んだところの続きからスタートする方法、の二つが考えられます。

どうすべきかについての私の考えは術に述べた通りで、積み重ねが必要な算数(数学)、理科は①、その他の科目は②とするのが良いと考えています。

その理由は、生徒の属性別に対応を考えても最適と考えられるからです。

小中学生の生徒を次の3つの属性(ア)自分で勉強できる生徒、(イ)中間層、(ウ)自分で勉強できない生徒、に分けることが出来ます。

(ア)自分たちで勉強できる生徒

この生徒たちに対しては、コロナ対応として勉強を手助けする特別な支援は殆ど必要ないと思いますが、彼らの足を引っ張ったりやる気を削いだりするようなことが無い様にしてあげる必要があると考えます。例えば、自宅学習で他の生徒よりも学習が進んでいるため、学校再開後の授業内容がすべて学習済みで暇になってしまうことが懸念されます。いわゆる「浮きこぼれ」になってしまいます。これでは休校明けの授業時間が無駄になってしまうので、授業中の自習を認める措置(教師が自習を禁止することを禁じる措置)を文科省が定めるべきだと考えます。

(ご参考)「浮きこぼれ」と「落ちこぼれ」を同時に解決するアイデア

(イ)中間層

この層の人数が一番多く、その重要性から国もこの層の対応について頭を悩ませていると推察しています。中間層は「オンライン授業でもそこそこ勉強できるが、対面式授業と違ってオンラインは勉強する強制力がなく生徒の自主性に依存してしまう。そのため、放っておくと学力が低下してしまいかねない層」だと考えます。

オンライン授業は、個々人が学習の習熟度に応じて学べる点、分からないところは何度も見直せる点、その科目で日本一の先生の授業が受けられる点で、対面式授業よりも優れています。一方で、授業を受けることを強制することが出来ません。管理する側(=国)の立場になって考えると、オンライン授業を導入しても生徒がさぼってしまうリスクは許容できないというところではないでしょうか。そんなリスクを冒すくらいならば今のままで良いという判断だと推察しています。

オンライン授業だけでは不安なので、学校が再開したらオンライン授業で取り扱ったところも含めて対面式授業もやるという対応が考えられます。しかし、これでは授業数が不足し年度内に履修内容を消化できなくなってしまいます。

そこで9月入学という制度が案の一つとしてマスコミで報じられていると思うのですが、これは「(ア)自分たちで勉強できる生徒」達に強制留年を強いる方法であり、悪手だと私は考えます。さらに、憲法26条は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定められており、強制半年留年は「その能力に応じた」教育を受けさせないことになり、憲法違反の可能性もあると考えています。

(ご参考)9月入学が憲法違反になる可能性の検証

そこで、上記の通り、積み重ねが必要な算数(数学)、理科は教科書の最初のページからスタートし、その他の科目はオンライン授業で学んだところの続きからスタートする方法であれば、コロナによる授業の遅れを最小限に留めつつ、自宅学習がはかどらなかった中間層への配慮も出来るのではないでしょうか。

(ウ)自分で勉強できない生徒

これは「学びを深めるために対面式授業で手厚くフォローする必要がある層」という意味です。リソースが無限にあれば一人一人に教師をつけるのが理想ですが、人のリソースや予算には限りがあります。そのため、国としては現場のリソースが許す範囲内でのフォローを指導するとともに、「最低限身に付けなければならない教養」の獲得は絶対条件として現場の教師たちを指導するという方法にならざるを得ないかと存じます。「最低限身に付けなければならない教養」とは上で述べた「読み書き、算数、歴史、政治」であると私は考えますが、これは少なくとも文部科学省の中では定めておく必要があると思います。それによって必要とされる対応策が変わってきます。

私は「読み書き、算数、歴史、政治」が必須だと考えており、これは9年間の義務教育で十分身につくものです。つまり、コロナの影響で多少授業に穴が開いても支障が無いと考えています。言い換えると、コロナ対応としてこの層だけに国(=文科省)が特別な対策を講じる必要は無いと考えています。むしろ現場に任せば足りるというスタンスです。

尚、オンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)の導入が進めば教師たちが授業に費やす時間が削減できます。そうなれば、こういった手厚いフォローが必要な生徒に対して教師が費やせる時間がもっと多くなることが期待されます。

最後に

以上、コロナ対応として法令等の障害や、私が考える最善の策についてまとめました。私の案は文部科学省内で完結できる案でもあり、多と比べて迅速な対応が可能な案です。

一方で、マスコミが頻繁に持ち上げている9月入学は、各省庁との協議が必要であり、場合によっては憲法改正も必要となります。報道でメリットとして挙げられている点のうち、殆どはまやかしとしか思えません。

私も9月入学自体には賛成ですが、その実現のために全学生を強制的に半年間留年させることには反対です。コロナ対応として9月入学を導入するよりも、上記の私の案の方がはるかに良い案だと考えています。

この投稿で各種論点整理の一助となれば幸いです。

 

議論すべき点は尽きませんが、文科省の担当者であれば、他にも以下の様な点を詰める必要があろうかと存じます。それに加えてどの案がベストなのかについて根拠も準備する必要があります。

  • コロナ対応で今年度の授業日数が大幅に削減された場合の対応(例えば、断続的に6か月以上の休校となる)
  • 来年度もコロナが続き休校が長期継続した場合の対応
  • 授業時間不足解消に夏休みを活用する場合の具体的方法(エアコンが無い学校の熱中症対策他)
  • オンライン授業では対応が難しい小学校低学年のフォロー
  • オンライン授業を標準授業時数に加算する是非。それに伴う法令改正
  • オンライン授業が標準授業時数として認められた場合、全く登校しなくなる生徒のモラルハザード対応
  • 半年留年のバーターとして飛び級を認める場合の法制度整備(義務教育は年齢で定められている)
  • 関係法令の改正/調整

やるべきことは山積みです。もし9月入学にするのであれば、さらに対処/調整すべき事項が増えます。マスコミの方々には是非9月入学のメリットばかりを強調する偏向報道の自粛をお願いしたく存じます。その報道につられて変な政治家が官僚の方々に圧力をかけ、国益に反する対策が成就してしまう事態は避けたいというのが私の願いです。

(余談)オンライン授業で備えてほしい機能

オンライン授業のユーザーインターフェース(再生ボタンや早送りといった使い勝手の意)について、私も使用した経験から、「こんな機能があったら良い」というものを紹介します。

  • 字幕(先生が話している言葉を耳だけでなく目でも追えるため、記憶力を高める効果が期待できる。聴覚障がい者も使えるメリットがあります)
  • 早送り機能(特別な訓練をしなくても5倍速程度なら普通に聞きとれます。ゆっくり話す先生や簡単な内容であれば3倍速でも聞き取れるので、3倍速までの機能が欲しい所です)
  • 見直す際に素早く見たいところを探せるように、早送りの区切り(チャプター)を作る

 - 教育

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