教育国債でFランク大学が延命される

      2017/03/11

2017年2月15日、自民党の教育再生実行本部が特命チームを設け初の役員会合を開きました。この会合で、大学等の授業料を無償化するための財源として、使い道を教育に限定した「教育国債」を発行する検討を開始しました。この特命チームは、政府が2017年6月頃に決定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)にこれを盛り込むことを目指しています。

このことが実現してしまえば、Fランク大学に通う大学生の費用を私たちが負担することになります。中学レベルの授業を行っている大学の費用を公費で賄うことは日本全体にとって良いことなのでしょうか?

 

この投稿では、「教育国債」導入が掲げられている背景や導入によるメリット・デメリットについて考察し、本来大学に行く費用は誰が負担するのが良いのかについて明らかにすることを試みています。

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自民党が教育国債の導入に取り組んでいる背景

安倍首相は、2017年1月の衆院本会議で、次のような発言をしています。

意欲と能力があるにもかかわらず、経済的理由によって進学を断念せざるを得ないということがあってはなりません。高等教育について、家庭の経済状況にかかわらず、必要とする全ての子供が機会を与えられるようにしていきたい。今後とも、必要な財源を確保しつつ、しっかりと取り組んでまいります。

出典: 第193回国会 本会議 第2号(2017年1月23日開催)

安倍首相の発言を簡単な言葉で言い換えると、優秀だがお金が無くて大学に行けない人をゼロにしたい、と言っています。

これが自民党が教育国債の議論をしている表向きの理由だと思われます。

一方で、憲法改正により教育の無償化を訴えている日本維新の会を取り込み、改憲議論を活性化させる狙いもあると言われています。

憲法を改正したいと考えている自民党が、その目的を達成する手段として教育国債という案を掲げること自体は政治実務の観点から非難できることではないと思います。しかし、最終的には一定の条件を満たした大学のみを無償化するように、文言等を調整すべきだと私は考えます。

例えば、憲法の条文上は「高等教育」を無償で受ける権利を定め、「高等教育」の定義は法令等で定めるという文言に留めておきます。そして、比較的容易に変更や修正が可能な法令等で、「高等教育」に当てはまる大学がどこなのかを具体的に定めるようにします。

このように定めれば、憲法改正に向けて日本維新の会から協力を得ることが出来、全ての大学を無償化するという税金の無駄遣いを排除することも可能となります。

 

大学の費用は誰が負担すべきか

義務教育は無償で受けられるように法律で定められています。これは理にかなっている仕組みだと思います。例えば、識字率が低いと政府が国民に何かを伝えたいときに、文字が読めない人に対しても伝えなければならないため莫大なコストがかかってしまいます。義務教育は日本政府が国を効率的に運営/管理するために、全国民が身に付けておくべき最低限度の教養という考え方ができます。そのため、税金でその費用を賄うのは理にかなっています。

 

では、大学の場合はどうでしょうか?

基本的には大学に行くことでその学生が高い給料の職につけるため、その学生個人がメリットを享受します。ということは、その個人が大学に行く費用を払うべきだと考えられます。

しかし、GDPの増加に寄与するような学生(例えば、科学者や業務を効率化出来るようなビジネスマンになる見込みのある学生)については、国全体がメリットを受けるので、大学の費用を国が負担するのが理に適っていると考えられます。

一方で、GDPの増加に寄与することが期待できない大学生については、その学生のみが大学に通うことのメリットを享受するため、親や学生自身が費用を負担するのが理に適っています。

 

つまり、義務教育は無償化が適切であり、高等教育(大学)は優秀な学生のみを無償化させるのが理に適っていると私は考えます。

 

(ご参考)大学卒業者を増やすことの経済効果に関する論文

国立教育政策研究所(文部科学省に置かれている研究機関)が、2013年3月に「学術振興施策に資するための大学への投資効果等に関する調査研究報告書」を発表しました。この報告書では大学に通うことでGDPを増加させる効果がある研究結果が紹介されています。

 

教育はそれを受けた者だけでなく、受けなかった者や社会全体にも恩恵を与える。読み書き計算ができるように教育を受けることはその個人にとっても大きな恩恵であるが、社会全体もこの恩恵を受ける。識字率が重要な問題となるのは、識字率が低い社会は、社会全体としてきわめて非効率な社会だからである。この教育を受けた者が、教育を受けなかった者あるいは社会全体に及ぼす効果を、外部効果あるいは外部経済と呼ぶ。より正確に言えば、外部効果は、効果の中でも市場を通じないで効果を及ぼすものを指し、価格に含まれない。このため、外部効果が存在する場合、その効果に対して、恩恵を受ける個々人や社会は対価を支払わないので、税金を徴収し公的に負担することが必要となる。ほとんどの国で義務教育が無償なのは、この理由による。ただし、教育段階が上がるほど外部効果は弱くなると考えられる。

(中略)

高等教育を受けた者が受けていない者に及ぼす効果を計測しようとするものである。これはスピルオーバー効果あるいは近隣効果などとも呼ばれている。アメリカの実証研究の結果では、確かにこうした効果があることが示されている。たとえば、大卒労働者の1パーセントの増加は、高卒労働者の賃金を1.6パーセント、大卒労働者の賃金を0.4パーセント増加させることが明らかにされた(Moretti 2004, Lange and Topel 2006など)。

出典: 学術振興施策に資するための大学への投資効果等に関する調査研究報告書 第8章 高等教育の社会経済的効果と費用負担(東京大学・大学総合教育研究センター 小林雅之教授、劉文君特別研究員)

Moretti等の研究の前提条件が今の日本に当てはまるのであれば、大学無償化は理に適った政策だと言えますが、実際はどうなのでしょうか?

今の日本には、大学で中学レベルの内容を教えるいわゆる「Fランク大学」という学校が存在します。

(この詳細は民進党の公約「大学無償化」は税金の無駄遣いではないか?をご覧ください)

 

また、Fランク大学に限らず多くの大学で言えることですが、学生は大学に入った後はあまり勉強をしていないのが実情です。こういった学生を増やしても日本のGDPが増加するとはとても思えません。権威のある方が引用しているレポートではありますが、もし国会等で引用されることがあれば、Moretti等の研究でおいていた前提条件は、日本に当てはめることが出来るのかを議論しなければならないことを予めこの投稿で指摘しておきます。大学無償化の推進派にこの論文が悪用されないことを願っています。

 

教育国債発行により大学を無償化することのメリットとデメリット

これまでデメリットについて主に述べて来ましたが、本来はメリットや代替案との比較でどういった選択肢を選ぶべきかを議論すべきです。そこで、まずはメリットとデメリットを整理してみます。

デメリット

  • 本来大学に行く予定でなかった人がFランク大学等に通うようになり、税金が無駄遣いされる
  • 大学に通わせない層から大学に通わせる層へ富が移転する
    一般的には子供を大学に通わせている家庭の方が、通わせていない家庭よりも年収が高い傾向があります。大学無償化は国民全員(=税金)で大学の費用を負担するという手法なので、大学に通っている家庭の費用負担を軽くし、大学に通っていない家庭の費用負担を増加させることに繋がります。見方を変えれば金持ち優遇政策とも言えます

 

メリット

  • 大学に行く能力があったが経済的事情で断念していた学生が大学に行けるようになる

(ご参考)「貧困の連鎖」の正しい分析方法

大学無償化のメリットとして貧困の連鎖を挙げる人もいると思います。貧困の連鎖を議論する際に「東大生の親の年収が高いから、日本は貧困の連鎖になっている」といった説明をよく見かけます。しかし、これは因果関係を考慮していない間違った分析の仕方です。

「年収が高いのは親が優秀だからであり、親が優秀だから子供も優秀である」という因果関係が想定されるため、「お金をかけないと子供が優秀にならない(貧困が連鎖する)」とは結論付けられません。

貧困の連鎖があるのかどうかは、「良い大学に合格するために塾や家庭教師等に大金を投じる必要がある」ということを証明する必要があります。現状、そういった観点の記事や調査を私は見たことがありません。

私の個人的な意見ですが、貧困の連鎖は日本にはあてはまらないと考えています。理由としては、大学受験のための参考書が充実しているため、お金をかけずに独学で一流大学に入学する環境が整っているからです。

「貧困の連鎖を解消するために大学を無償化するべき」という主張は間違っていると私は考えます。

 

教育国債の発行と大学無償化

大学の無償化をすべきでない理由についてこの投稿で説明してきましたが、教育国債の発行をすべきでない理由についてここで説明します。

 

ベンジャミン・フランクリンの言葉等を引用し、教育に関する資金は国債発行で賄うべきだという説明をしばしば見かけます。そういった説明では、教育投資は将来大きな見返りが期待できるということをその理由に掲げています。しかし、この説明は二つのことを見落としています。

1つ目は、教育投資といっても将来の見返りが期待できないものがあるという点です。大学に行っても勉強しない学生については、その授業料負担を国が負うことは税金の無駄遣いになります。

2つ目は、日本の財政状況としてむやみに負債を増やせない状態である点です。日本国債の発行残高は約800兆円(2016年3月末時点)あります。将来的にリターンが見込めるからと言って借金を増やしてよいほど日本の財政に余裕はありません。

 

大学無償化、教育国債発行の代替案

では大学の費用負担と財源確保は本来どうするべきなのでしょうか。

大学無償化の代替案

大学に通う費用は本来誰が負担すべきでしょうか?繰り返しになりますが、日本のGDPを増加させるような優秀な学生に対しては国の費用で賄い、普通の学生に対しては自己負担させるというのが本来あるべき税の配分ではないでしょうか。

別の言い方をすると、やる気のある子供には成長する機会をどんどん与え、やる気のない子供については最低限必要な教養を必ず身に付けさせるのが本来あるべき教育制度だと思います。

つまり、レベルの高い大学のみを無償化させるか、レベルの高い学生に給付型奨学金を与える制度を充実させるのが私が考える代替案です。

ご参考までにですが、ハーバード大学の学生は親の年収が65,000ドル(約650万円)以下の場合、留学に係る費用を全く払っていません(奨学金で手当てされています)。やる気のある優秀な学生に対して成長する機会を提供している良い例だと思います。

(詳細は東大よりも安く行けるハーバード大学をご覧ください。)

 

教育国債発行の代替案

大学無償化の財源は本来どうするべきなのでしょうか?現在の日本の財政状況を鑑みると、教育国債を発行するのではなく費用を削減することで予算を捻出するのが政策として本来あるべき姿だと思います。費用削減の方法として、私が考えたアイデアをご参考までに紹介させていただきます。

それは義務教育の授業に動画を活用するというアイデアです。こうすることで、義務教育に携わる人員を3分の1程度まで削減できるのではないかと私は考えます。

このアイデアについては理想的な教育制度とは?で詳しく説明しているので、興味のある方は是非ご覧ください。

 

将来の世代に借金を背負わせないために私たちが出来ること

大学を無償化しその費用を教育国債で賄うようなことを実行してしまえば、将来的には大してGDPが増えず国の借金が増加することになると予想されます。

このような事態を避けるために今私たちが出来ることは、世論形成だと思います。世の中で教育国債による大学無償化に反対する声が大きくなれば、政治家も妥協案を模索せざるを得なくなります。

 

このような世論を形成させるために役に立つと思われるアイデアを最後に紹介させていただきます。

それは、教育国債による大学無償化の是非に関するアンケート調査を世代別に行うというものです。

恐らく、若い世代からは支持されないのではないかというのが私の予想です。

特に、灘、開成、桜蔭等の高校生にアンケートを取れば、とても面白い結果が得られると思います。彼らは今後大学に進学する層であり、恐らく親の収入も高い層だと思われます。ということは、教育国債による大学無償化は彼らにとって有利なはずですが、恐らくこの政策は支持されないと思われます。

マスコミの方や、上記高校に通っている方等でこのアイデアに賛同して頂ける方は、是非アンケートを取って頂き世の中に発信してもらいたいと思います。

 

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