日本銀行の仕組み ~お金の発行が負債計上となる理由~
2017/07/30
日本銀行がお金を発行したとき、日銀のバランスシートでは発行した金額を負債の部に計上します。これは果たして正しい会計処理なのでしょうか?
結論から言うと間違っており、違法性が疑われます。そして、日銀によるお金の発行はインフレ税が課されていることを意味するのですが、こういった説明は日銀からなされていませんし、マスコミでこの問題が取り上げられることがあまりないように感じています。
そこで、日銀がなぜこのような会計処理をしているのかを一人でも多くの人に知って頂くために、この投稿でなるべく分かりやすく説明をしてみたいと思います。そして、多くの人が一連の仕組みや背景を理解したうえで、現在課されているインフレ税の是非について議論して頂くことを願っています。
目次
日銀が採用している会計ルールとは?
日銀のウェブサイトでは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準(GAAP: Generally Accepted Accounting Principles)を尊重すると説明されています。
Q 日本銀行ではどのような会計ルールに基づいて会計処理を行っていますか?
A 日本銀行では、中央銀行としての財務の健全性を踏まえながら、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を尊重して、会計処理を行っています。
日本銀行における会計処理は、日本銀行法、日本銀行法施行令、日本銀行法施行規則および日本銀行定款、の定めによるほか、別に定めのない限り、会計規程の定めに従って行われます(会計規程第2条)。
一般に公正妥当と認められる企業会計の基準とは?
日本公認会計士協会が設置した監査基準委員会が、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を例示しています。
我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準の例示
- 企業会計審議会又は企業会計基準委員会から公表された会計基準
- 企業会計基準委員会から公表された企業会計適用指針及び実務対応報告
- 日本公認会計士協会から公表された会計制度委員会等の実務指針及びQ&A
- 一般に認められる会計実務慣行
財務諸表の適正性に関する判断を行うに当たり、実務の参考になるもの
- 日本公認会計士協会の委員会研究報告(会計に関するもの)
- 国際的に認められた会計基準
- 税法(法人税法等の規定のうち会計上も妥当と認められるもの)
- 会計に関する権威のある文献(例 財務会計の概念フレームワーク)
負債の定義とは?
日本における会計基準は、民間団体である企業会計基準委員会(ASB)が定めています。
世の中では新しい金融商品や商慣行が次々と生まれてくるため、会計基準もそれに合わせて改定していく必要があります。そこで、企業会計基準委員会では、「財務会計の概念フレームワーク」を公表しました。これは、日本における会計基準の設定指針となることを期待されて公表されました。
これによると、負債は以下の様に定義されています。
「負債とは、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源を放棄もしくは引き渡す義務、またはその同等物をいう」
難しい表現になっていますが、簡単に言い換えると、「返済しなければならない借金なら負債である」と説明しています。
ということは、「返済しなくても良い借金であればそれは負債では無い」ということになります。
日銀の会計処理は適切なのか?
このように、負債とは「返済しなければならない借金」と会計基準では定めています。では、日銀がお金を発行した時は負債となるのでしょうか?
会計基準に則れば負債になりません。日銀に1万円を持って行って借金返済を求めても、日銀はそれに応じる義務が無いからです。1万円相当の金塊や銀や不動産等を対価として支払ってくれるわけでもありません。
何故日銀はお金を発行した際、負債として計上するのか?
日銀のウェブサイトで説明されているので、興味のある方は以下のリンクをご覧頂下さい。
日本銀行ウェブサイト 銀行券が日本銀行のバランスシートにおいて負債に計上されているのはなぜですか?
日銀の説明を解釈すると、次のような理由から負債として計上すると主張しています。
- 以前は日銀にお札を持ってくると、金や銀と交換する義務が日銀に課せられていた(これを金本位制といいます)。つまり、お金を発行すると金や銀での支払い義務が発生するため負債として計上していた。現在は、金や銀での支払い義務は無いものの、過去のやり方を継続している
- 日本円の信用力を維持するため
「過去のやり方を継続している」という説明では、今の制度では現金を負債として計上する正当な理由にはなりません。
「日本円の信用力を維持するため」について簡単に補足説明します。
仮にお金を発行した際に負債では無く純資産の部に計上した場合、どういったことが起きるのでしょうか。お金を発行しても日銀の借金が増えるわけではないというイメージが世の中に浸透してしまうと、「お金をどんどん刷って、景気対策や国の借金返済をすればいい」という世論が形成されてしまうリスクがあります。
このような間違った理解で世論が形成されてしまうと、日銀や政治家が世論に迎合して必要以上にお金を発行することになってしまいます。実態を伴わないでお金だけが大量に世の中に出回ってしまうと、ハイパーインフレが起きてしまうリスクがあります。
こういった事態を防ぐために日銀は「日本円の信用力を維持するため」と説明しているものと思われます。
しかしこれは、負債に計上する目的としては一定の合理性がありますが、会計ルールでは間違った方法であることに違いはありません。
日銀はどうすべきか?
会計ルールに従うと、日銀がお金を発行した場合は損益計算書で通貨発行益を計上し、貸借対照表(バランスシート)の利益剰余金にその利益が積みあがっていくという処理を行うべきです。
通貨発行益の詳細については以下の投稿をご覧ください。
そして、通貨発行益を計上しているということは、インフレ税が課されているということを、国民に対してもっと説明するべきだと私は考えます。
インフレ税の詳細については以下の投稿をご覧ください。
そして、私たちは通貨発行益やインフレ税の仕組みを理解したうえで、日銀や政府の政策を議論するのが望ましい姿だと思います。
この投稿がその一助となれば幸いです。