新型コロナによる経済対策の財源 ~EU諸国のデフォルトリスク~

      2020/05/02

新型コロナウィルス(武漢肺炎、COVID-19)の影響で、生活に困っている国民や疲弊した経済活性化を狙って、各国政府が支援策を相次いで打ち出しています。掲げられている支援策の金額はかなり大きく、多くの国では赤字国債を発行せざるを得ないと思われます。

一方で、支援策の財源についての報道や将来どういった影響があるのかについて説明されている報道がほとんど見られないため、このブログで私なりの考えを紹介させていただきます。

ポイントは以下の二点です。

  • 通貨発行権のないEU諸国(ドイツ、フランス、イタリア等)は、巨額の支援策をやりすぎると、デフォルトするリスクが高まる
  • 通貨発行権を持っている米国、日本、英国は国債のデフォルトリスクは極めて低いが、大量に発行し過ぎるとハイパーインフレを招いたり、財政規律が失われて税金の無駄遣いを助長してしまうリスクがある

以下順を追って説明します。

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国債の償還手法 ~増税vs通貨発行~

増税による返済

国債を発行すると将来それを返済(償還)しなければなりません。通常は増税によってその返済資金が捻出されます。しかし、国債を多く発行しすぎてしまうと、増税だけでは対処できず返済できなくなってしまう場合があります(国債がデフォルトする)。

通貨発行による返済

一方で、通貨発行権を持っている国は新たにお金を発行して国債の返済に充てることが出来ます。実際、日本はこの方法で数百兆円の国債を返済しています。返済する流れは次の通りです。

まず、日本銀行が国債をメガバンク等の民間の銀行から購入し、購入代金の支払いは新たに通貨を発行します。その後、日本銀行が保有している国債が満期を迎えた場合、借り換えのための国債を国が発行し日銀がそれを直接取得するか、償還(返済)されます。日本銀行の利益は国庫納付金としてほぼ全額が国に吸い上げられているため、償還(返済)された場合であっても、この資金吸い上げによって国の財政上はプラスマイナスゼロとなります。

通貨発行のリスク

通貨を発行できるならいくらでも国債を発行してお金を国民に配ればよいのではないかという疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし、通貨を大量に発行し過ぎるとお金の価値が下がってしまい、場合によってはハイパーインフレを引き起こしてしまいます。そうなると為替レートも悪化し、他の通貨に対しても自国通貨の価値が下がりもっと別の深刻な問題が生じてしまいます。

更に、いくらでもお金を生み出せると勘違いされてしまい、財政規律が失われて税金の無駄遣いを助長してしまうリスクもあります。

 EU諸国のデフォルトリスク

ドイツ、フランス、イタリアは危ない?

自国通貨建ての国債であれば為替レートがいくら下がっても、お金を新たに発行すれば返済が可能ですが、外国通貨建てで返済しなければならない国債の場合、為替レートが下がり過ぎてしまうとその返済も難しくなります。

つまり、自国の経済力が弱いために自国通貨建ての国債を発行できない国(例えば、アジアや南米諸国)、経済力があっても通貨発行権が無い国(例えば、ドイツ、フランス、イタリア)は、新型コロナ対策で国債を発行し過ぎると、その後の財政破たん(国債の返済が出来なくなる)を引き起こすリスクが高まってしまいます。

アメリカ、イギリス、日本はデフォルトしない

アメリカ(ドル)、イギリス(ポンド)、日本(円)は経済力もあり、自国通貨の発行権を持っているため、基本的には国債を大量に発行しても、お金を刷れば返済が可能です(もちろん、あまりやり過ぎるとハイパーインフレや財政規律が失われて税金の無駄遣いを助長してしまうリスクも想定されます)。

欧州中央銀行/ユーログループの決定がデフォルト回避のカギ

ユーロを採用しているEU諸国は今回の新型コロナ対策によって財政破たんするリスクを抱えたと私は考えます。ただし、欧州中央銀行が通貨発行権を持っているので、EU加盟国がそれぞれ大量に国債を発行したとしても、ユーロの通貨を発行して返済を肩代わりする方法も取れるはずです。または、共同債を発行し、借金の少ない国の信用力を活用し財政破たんリスクのある国の資金調達を支援する方法もあろうかと存じます。

どちらの方法をとるにしてもEU加盟国が多く利害調整は大変だとわれ思われます。

新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われているEU(欧州連合)では、加盟国間の亀裂が表面化している。爆発的な感染拡大からすでに1カ月以上が経過するが、いまだにEUとして一体的なコロナ危機対応をまとめ切れずにいる。7日に行われたユーロ圏財務相会合(ユーログループ)は、16時間に及んだ徹夜の協議にもかかわらず、結論が出ないまま終わった

(中略)

コロナ危機対応で財政資金が必要となった国に対して、EUの財政救済基金である欧州安定メカニズム(ESM)から融資枠(クレジットライン)を設定することが決まった。財政資金が不足する国はGDP(国内総生産)比で2%までの借り入れが可能で、融資枠の総額は2400億ユーロ。

(中略)

財政統合と債務共有化につながる共同債の発行に、財政規律に厳格なドイツやオランダなどが反対するのは今に始まったことではない。放漫財政国の借金を規律重視国の税金で穴埋めすることは、国民の理解が得られないばかりか、財政悪化国のモラルハザード(倫理の欠如)を招く。これは欧州債務危機のときに、「アリ(ドイツ)とキリギリス(ギリシャ)」のイソップ寓話を例にたびたび語られた構図だ。

出典: 東洋経済 2020年4月15日 (コロナ危機対応でEUの亀裂が一段と深まるワケ)

 

各国の支援金額比較

新型コロナウイルス対策として各国が掲げている支援策の金額、GDPに対する支援額の割合、支援策実施のために新たに発行する国債の金額一覧を作成しました。

支援策の中身は各社各様なので完全な比較は出来ませんが、GDPに対する支援額の割合を見てみると、日本はドイツとほぼ同水準の2割もの金額を拠出しており、米国を含む他の先進国よりもかなり思い切った策を打ち出していることが垣間見られます。

支援策の金額
(兆円)
名目GDP
(兆円)
GDPに対する支援額の割合 国債発行額
日本 108 525 21% 17兆円(数兆円増額予定)
アメリカ 216 2,102 10% 金額未確定(国債発行を検討中)
イギリス 47 284 17% na
ドイツ 88 398 22% 18兆円
フランス 5 279 2% na
イタリア 3 210 1% na

注: 2020年4月20日現在の為替レートを使用

出典:

  1. 独立行政法人労働政策研究・研修機構 2020年4月20日 (新型コロナ対策に関する諸外国の動向)
  2. 三菱総合研究所 2020年4月6日 (新型コロナウイルス感染症の世界・日本経済への影響と経済対策提言 6ページ目)
  3. BBC 2020年3月18日 (「海外渡航は避けて」 イギリス外務省、新型ウイルス対策で旅行制限へ)
  4. ブルームバーグ 2020年3月11日 (イタリア、新型コロナ対策に3兆円充当へ)
  5. 世界の統計2020 総務省統計局 UN, National Accounts - Analysis of Main Aggregates (AMA)

 

関連報道

 

政府は7日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策と2020年度補正予算案を閣議決定した。経済対策の事業規模は昨年末以降の総合経済対策や緊急対応策の第1弾・第2弾と合わせて108.2兆円と国内総生産(GDP)の2割に当たり、財政支出は39.5兆円と、いずれも09年度のリーマンショック時を超えて過去最大規模となった。

(中略)

今年度補正予算案の追加歳出は16.8兆円となり、その全額を国債発行で賄う。内訳は建設国債2.3兆円、赤字国債14.5兆円。今年度の新規国債発行額は49.4兆円と、09年度の51.9兆円には届かず、国債増発に余力を残す形となった。

出典: ブルームバーグ 2020年4月7日 (緊急経済対策は過去最大108.2兆円、財政支出39.5兆円-新型肺炎)

 

ドイツのメルケル政権は23日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済対策を発表した。新規国債発行をゼロにする財政健全路線を封印し、1560億ユーロ(約18兆円)の国債を発行して零細企業や個人事業主への支援などを進める。経済安定ファンドを通じて最大6000億ユーロの企業の債務保証、出資なども実施。双方を合わせると対策規模は国内総生産(GDP)の2割程度に達する

ドイツが新規に国債を発行するのは7年ぶり。ドイツでは基本法(憲法)で均衡財政が義務付けられ、新規の国債発行はGDPの0.35%までに制限している。メルケル政権は2019年までの6年間、新規の国債発行をゼロに抑え、この原則を守り続けてきた。

出典: 日本経済新聞 2020年3月23日 (ドイツ経済対策、GDP比2割 7年ぶり新規国債18兆円)

 - 経済

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