カジノ解禁によるメリットとデメリット

      2017/03/25

2016年12月15日、「IR推進法案」が国会で成立しました。いわゆる「カジノ法案」です。この法案の正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」といいます。この法案が成立したことで直ちにカジノが解禁されるわけではなく、これから解禁に向けた準備が進められることになったに過ぎません。

私としてはこれから法整備等が進められるのに際し、きちんとしたデータや根拠に基づき制度設計がされることを望んでいます。そこで、この投稿ではギャンブル解禁のデメリットとして頻繁に指摘されているギャンブル依存症について触れ、解禁によるメリット、デメリットについて整理してみました。

詳細は以下に記載しているのでそちらをご覧いただきたいのですが、この投稿でお伝えしたいことは、ギャンブルに関する研究や情報をもっと充実させてほしいというものです。

ギャンブル依存症に関するデータはまだまだ不足しています。さらに、カジノを活用したマネーロンダリングの仕組みや対策についての情報も不足している印象を受けます。適切な制度設計がされるために、これら2つのことに関してもっと多くの報道がなされ、専門家の方々により沢山の研究結果が発表されることに期待したいと思います。

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目次

ギャンブル依存症について

日本におけるギャンブル依存症の人数や割合に関するデータはあまりそろっていないのが現実の様です。

マスコミの報道によれば日本でギャンブル依存症の疑いがある人は成人人口の4.8%にあたる536万人に上るとの推計があるとのことです(注1)。

マスコミが引用しているこのデータは「厚生労働省の研究班」によるものの様ですが、正確には厚生労働省から補助金をもらって調査/研究している独立行政法人 国立病院機構久里浜医療センターのことを「研究班」と呼んでいると思われます。

この久里浜医療センターに所属している樋口進氏が代表研究者を務めた研究の中で「我が国の成人の飲酒行動に関する全国調査2013年」という報告書があります(注2)。

全国から対象者を無作為に選び4,153人から有効な回答が得られた調査で、男性は8.8%、女性は1.8%の方がギャンブル依存症という結果が得られています。

尚、私が調べた限りではマスコミが報道しているデータは見つかりませんでしたが、厚生労働大臣の記者会見にて報道の内容を概ね認めるような発言がなされています。

8月21日に昨年行われた厚生労働科学研究の結果としてギャンブル依存症が536万人、成人が4.8パーセントとの報道がございましたが、これは5年に1回やっております、ルーティンの研究でございまして…

出典: 厚生労働省ウェブサイト 田村大臣閣議後記者会見概要 2014年8月29日 一部抜粋

世界におけるギャンブル依存症の割合が1%程度なので、日本の4.8%は高すぎる印象があります。アンケートの方法等が世界各国の調査方法と異なっているからこのような高い数字になっているのか、それともパチンコ、競馬、競輪等が世界と比べて多く設置されているからこのような高い数字になっているのかは、専門家の研究によって今後明らかにされることを期待したいと思います。一部の専門家からは、アンケートを受けた際の回答の仕方が日本人と欧米人とでは異なるため、ギャンブル依存症と定義されやすくなってしまっているとの指摘をしている方もいるようです。

いずれにしても、ギャンブル依存症に関する研究はまだまだ少ないと思います。カジノが日本で合法化される前に、十分なデータが収集され、ギャンブル依存症対策が正しい根拠に基づいて議論されることを期待しています。

 

カジノ解禁のメリットとデメリット

カジノを解禁する際の最大のデメリットとしてギャンブル依存症を指摘することが多いですが、上記の通りそのデータや研究はまだまだこれからという段階だと思われます。

こういった研究は国会での議論と同時並行で進めていかれると思いますが、その他にも検討すべきことは多岐にわたります。そこで、今後カジノ解禁に向けてどういったことを議論しなければならないのかの参考として、この投稿でカジノ解禁によるメリットとデメリットについて簡単に整理してみました。

 

メリット

  • ギャンブル依存症対策の充実
    現在、政府として依存症の対策は十分とは言えない状況です。カジノ解禁を機に、政府として系統立てた依存症対策が準備されることが期待される
  • 税収の増加
    これまで闇カジノに流れていた資金を税収として取り込むことができる。ただし、パチンコ、競馬、競輪等既存のギャンブル(遊技)から顧客が流出する部分については税収が下がる影響が想定される
  • 雇用創出
    カジノや複合施設の建設に係る人員、建設後当該施設で働く従業員に係る雇用創出が期待される
  • 地方の活性化
    カジノを含む大規模リゾート施設を建設した地域では、観光客の誘致が期待される
  • カジノ消費の国内シフト
    訪日観光客数の増加、滞在日数の増加、マカオやシンガポールに流れていた潜在顧客を日本に誘導することが可能
  • 反社会的勢力の資金源根絶
    闇カジノが衰退し、それを取り仕切っている反社会的勢力の有力な資金源を断つことが見込まれる

 

デメリット

  • ギャンブル依存症の増加
  • 依存症対策の費用が経済的効果を上回るリスク
  • 既存産業の衰退
    パチンコ、競馬、競輪等にお金を投じていた層が、カジノに移行する可能性あり
  • マネーロンダリングに悪用されるリスク
  • 治安が悪化する可能性
    ただし、人口の増加に比例して犯罪が増えるだけであり、犯罪率はカジノによって変わらないという説もある

 

最後に

今後国会ではカジノ解禁へ向けた法整備が進められて、議論が活発化されていくと思います。

上記に挙げたメリットやデメリットに加え、様々な事項について検討していかなければなりません。しかし、そういった議論を進める際に重要な研究や調査は、まだまだ不十分な印象を受けます。ギャンブル依存症のデータを探しても上記のものくらいしか無いというのが現状です。

個人的には、「ギャンブル依存症の実態把握と対策」、「カジノを活用したマネーロンダリングの仕組みと対策」についての情報をもっと充実させて欲しいと考えています。マスコミによる報道や研究者の方々による発表に期待したいと思います。それにより、カジノ解禁へ向けた準備が整うことを願っています。

尚、ギャンブルに関する現行の法制度については、ギャンブルが規制されている理由で紹介しています。興味のある方は是非ご覧頂ければと存じます。

 

(注1) 出典: 日本経済新聞2014年8月20日、毎日新聞2014年8月21日他)

(注2) 出典: 厚生労働科学研究成果データベース 「WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究」 文献番号 201315050A 2014年8月21日公開)

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