9月入学が憲法違反になる可能性の検証

   

新型コロナウイルスの蔓延で休校期間が延びたことによって9月入学に変更するマスコミの報道が頻繁になされるようになりました。9月入学自体は私も賛成ですが、全学生を強制的に半年留年させるのには反対です。自主的に自宅で学習している生徒を半年間強制留年させることは余りにも酷だと考えるからです。

本投稿では、半年間の強制留年が憲法違反になるのか、強制留年によって生涯賃金が減少することに対する損害賠償請求の可能性について調べ、私なりの意見を纏めました。

結論を先に述べると、半年間の強制留年は憲法違反となる可能性が高いと言えそうです。また、損害賠償請求については100万円~300万円を請求し得ると試算しました。

以下順を追って説明します。

この投稿の目的

強制留年を伴う9月入学になるかどうかは、その実務手続きを主導する文科省のエリート官僚次第です。彼ら(彼女ら)は、強制留年という大きなデメリットについてしっかり理解しており、それを避ける手法を模索していると私は確信していますが、公務員でもあります。文部大臣やその他の政治家から圧力や指示が出されれば、その方針に従って動かざるを得ません。

強制留年のデメリットを被るのは年長~大学(院)の児童/学生達のうち、平均よりも上の成績を収めている人たちに限られます。そのため、世論調査等のアンケートを取れば、必ず少数派になってしまいます。

民主主義国家では、政治家は多数派の意見を取り入れるという仕組みになっています。そのため、例え強制留年が伴ったとしても政治家は9月入学を導入させるインセンティブが働いてしまいます。

一方で、こういった制度変更の事務手続きを主導する文科省のエリート官僚たちは公務員でしかありません。上司である文部大臣(及びその他の政治家)から圧力や指示がだされれば、それに抗う術は限られてしまいます。

そこで、官僚たちがそういった圧力に抗う手段を提供するためにこの投稿をしています。

憲法違反や生涯賃金減少に関する集団訴訟の可能性が高まれば、文科省の官僚たちはそれを盾として文部大臣等の政治家に対して、強制留年を伴う9月入学をするべきでないと提言できるようになります。

賛同いただける方は、是非、友人や知人にこの考えを教えていただければ幸いです。

繰り返しになりますが、私は半年間の強制留年には反対ですが、9月入学に変更すること自体は賛成です。コロナ対策は9月入学にするよりも、もっと簡単且つ効率的且つ有効な手段が多くあります。具体策について私の考えを纏めました。是非興味のある方は以下の投稿をご覧ください。

オンライン授業の論点整理 ~導入の障害と解決策~

憲法第26条 その能力に応じて

日本国憲法および教育基本法では、以下の通り「能力に応じ」教育を受ける権利が保障されています。

日本国憲法

第26条第1項 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

教育基本法

第4条第1項 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

次に、この「能力に応じ」とはどう解釈すべきかについて説明します。

衆議院憲法調査会事務局が作成した資料では、以下の通り開設されています。かみ砕いで言い換えると、「憲法第26条では親が貧乏だからという理由で入試の合否が判断されるようなことはやってはならないと定めている。もちろん、頭の良し悪しによって適した教育を受ける権利があるのは言うまでもなく当然のことである」ということになります。

「能力に応じて、ひとしく」とは、教育を受ける権利における平等、すなわち憲法14条の定める平等原則の教育における適用を意味する。すなわち、人種・信条・性別・社会的身分・門地などによって教育を受ける権利が差別されてはならず、もっぱらその能力に応じて、教育を受ける機会を与えられるべきこと(教育の機会均等)を示す。教育基本法3条1項は、このことを「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない」と定める。すなわちここに「その能力に応じて」とは、教育を受けることによってその人としての能力を向上せしめうる資質をもちながら、その資質とは関係のない他の事情によりそれが妨げられることがあってはならないことを意味する。この場合、「能力に応じて」は各人の「智能の相違に応じて」の意味ではない。国民が智能の相違に応じて、それぞれの智能に適合する教育を受けるべきであるということは、特に憲法の規定をまつまでもないことである。また、この場合、特に教育基本法3条1項において、憲法14条に列挙しているものに加えて「経済的地位」を加えていることは、教育を受ける権利の生存権的な性質を重視し、国民が経済的事情のために現実に教育を受ける機会をもちえないことのないよう、国が積極的に措置を講ずる責務を有することを示したものである。

(中略)

(教育基本法第4条第1号(旧第3条第1項)の説明)

  1. 語句の趣旨

「ひとしく、その能力に応ずる」……人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地のいかんにかかわらず等しく教育の機会を提供することをいうが、すべての児童生徒に同一の教育を与えることを意味するものではなく、個人差に応じる教育を施すという趣旨である。

出典: 教育を受ける権利に関する基礎的資料 衆議院憲法調査会事務局(2003年2月)より一部抜粋

神戸大学の渡部昭男教授は、憲法第26条第1項の解釈に関して以下の様な論文を書かれています。

教育を受ける権利が、十分な「教育を受ける」ことを国家の積極的条件整備によって保障されるべき国民の人権であるという、教育人権性をふまえた解釈でなければならない。その場合、すべての人が人間として、「学習権」すなわち学習によって人間らしく成長発達していく権利を有していることを前提として、教育を受ける権利は、すべての人がその学習権・人間的発達権を実現できるように国家に積極的条件整備を要求する権利である、と解される。そこで「能力に応じてひとしく教育を受ける」という語句も、すべての子どもが能力発達のしかたに応じてなるべく能力発達ができるような(能力発達上の必要に応じた)教育を保障される、といいう意味に読むことになる。これが、すでに教育法学会における通説的解釈と言えよう。

出典: 人間発達研究所紀要 第24・25号合併号(2012年3月) 渡部昭男 神戸大学教授より一部抜粋

上記について説明を補足します。憲法第26条第1項の「その能力に応じて」の意味は、従来「教育を受けるに適した能力があるかどうか」と解釈されていました。例えば、入学試験で合格者だけを入学させるのは問題ないが、家庭が貧乏だから(能力とは無関係な理由で)不合格とすることは認めないという解釈をされていました。

その後、「能力を成長させるために適した教育を受けられる権利がある」というように権利の範囲が拡大しています。人の能力は固定的なものではなく教育によって発達していくものなので、その発達を促すべく適した教育を受ける権利があるという意味です。

各種文献を読んでみると、従来の解釈は健常者を前提とした考え方であり、後者の解釈は障がい児も踏まえて保障される権利の範囲が広がったという解釈の様です。例えば、以下の様な判例もあります。

〈参考判例〉

身障少年の教育を受ける権利

(神戸地裁平成4年3月13日判例時報 1414号26頁)

進行性の筋ジストロフィー症に罹患していた原告は、平成3年度の尼崎市立高校への入学を志願し、入学者の選抜の合格ラインに達していたが、高等学校の全課程を無事に履修する見通しがないものとして入学不許可処分とされた

原告は、この処分は身体的障害を唯一の理由としたもので、憲法26条1項、14条などに反し違法であるとして、その取消しを求めるとともに、尼崎市に対して国家賠償法に基づく慰謝料の支払いを求めた。

神戸地裁は、「障害を有する児童、生徒を全て普通学校で教育すべきであるという立場に立つものではない」としつつも、「たとえ施設、設備の面で、原告にとって養護学校が望ましかったとしても、少なくとも、普通高等学校に入学できる学力を有し、かつ、普通高等学校において教育を受けることを望んでいる原告について、普通高等学校への入学の途を閉ざされることは許されるものではない。健常者で能力を有するものがその能力の発達を求めて高等普通教育を受けることが教育を受ける権利から導き出されるのと同様、障害者がその能力の全面的発達を追求することもまた教育の機会均等を定めている憲法その他の法令によって認められる当然の権利である」とし、「本件処分は、『高等学校における全課程の履修可能性』の判断に際し、その前提とした事実又は評価において重大な誤りをしたことに基づく処分であって、被告が本件高校への入学許否の処分をする権限の行使につき、裁量権の逸脱又は濫用があったと認めるのが相当である」とした。

以上の通り、衆議院憲法調査会事務局、神戸大学教授、判例の3つの文献を見てきました。共通して言えることは、憲法第26条第1項の「その能力に応じて」の意味は、「能力の成長を促すのに適した教育を受ける権利」を意味しており、「能力に応じた教育を受ける権利」は当然それに含まれると言えそうです。

ここでさらに重要なことを指摘させていただきます。

この憲法第26条は、生徒一人一人に合わせて教育を受けられる権利を保障しています。言い換えると、現状採用されている「教師1人に対して生徒が多数いる集団教育」を是としていません。

日本の義務教育では、年齢で自動的に進級する仕組みとなっています(このことを「年齢主義」と言います)。これは「同じ年齢の子は同じ能力である」という前提に立っていることを意味します。憲法第26条では一人一人の能力に応じて教育されるべきと定めているのに、

恐らく、「一人の生徒に一人の教師をあてがうのは実務上不可能である。次善の策として集団養育を採用する。同じ年齢で能力をひとくくりにするのは許容範囲内であり憲法に違反しない」という考えがあったものと推察しています。しかし、現在はIT技術が発達し、オンライン授業(双方向ではなく動画配信の意)が低コストでできるようになりました。一人一人の生徒がそれぞれ自分の能力にあった授業を容易に受けることができます。憲法の精神に則れば、オンライン授業の方がより適法です。少しでも早く集団教育からオンライン授業への移行することを願っています。

(ご参考) 9月入学に際し必要な法令改正

半年強制留年させる場合、各種法令の変更も必要となります。例えば、日本の義務教育は以下の法律で6~15歳と定められています。半年間強制留年させられる場合、それに関連する法令の変更が必要となります。その一例としては以下4つの条文んですが、これらの条文を引用している法令が多数あるはずですので、すべての関連法令を修正する必要があります。もちろん、これらの法令だけでなく、憲法の改正も必要だと私は考えます。

学校教育法

第二章 義務教育

第16 保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

第17 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了しないときは、満十五歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間においてこれらの課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)までとする。

2 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。

3 前二項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。

学校教育法施行規則

第59 小学校の学年は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる。

第79 第四十一条から第四十九条まで、第五十条第二項、第五十四条から第六十八条までの規定は、中学校に準用する。この場合において、第四十二条中「五学級」とあるのは「二学級」と、第五十五条から第五十六条の二まで及び第五十六条の四の規定中「第五十条第一項」とあるのは「第七十二条」と、「第五十一条(中学校連携型小学校にあつては第五十二条の三、第七十九条の九第二項に規定する中学校併設型小学校にあつては第七十九条の十二において準用する第七十九条の五第一項)」とあるのは「第七十三条(併設型中学校にあつては第百十七条において準用する第百七条、小学校連携型中学校にあつては第七十四条の三、連携型中学校にあつては第七十六条、第七十九条の九第二項に規定する小学校併設型中学校にあつては第七十九条の十二において準用する第七十九条の五第二項)」と、「第五十二条」とあるのは「第七十四条」と、第五十五条の二中「第三十条第一項」とあるのは「第四十六条」と、第五十六条の三中「他の小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部」とあるのは「他の中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部」と読み替えるものとする。

生涯賃金減少に関する損害賠償請求

多くの日本企業では定年が定められています。年度末が定年の場合もあれば誕生日が定年の場合もあります。法律では、定年は最短でも60歳の誕生日以降とするように定められています。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律

第8条 事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。

9月入学により半年間の強制留年となれば、働ける期間が半年短くなってしまいます。その損害額は合理的に試算できるため、国に対する損害賠償請求が可能だと考えられます。

尚、多くの企業では役職定年が採用されており、定年前に給料が減額されます。役職定年が誕生日に設定されている場合は、役職があった高い給料が半年分失われたことになります。

国税庁の発表によれば、年齢別の平均編集は以下の通りです。

年齢 男性 女性
55-59歳 686万円 322万円
60-64歳 537万円 298万円
65-69歳 410万円 242万円

出典: 国税庁 民間給与実態統計調査(2018年分)

この表、男女平等、強制留年期間が5ヶ月であることを鑑みると、男性は171~286万円、女性は101~286万円の損害賠償請求が可能だと試算されます。

まとめ

以上見てきたように、半年間の強制留年を伴った9月入学への変更は、憲法違反の可能性があり、且つ100万円以上の損害買収請求もし得ることが確認できました。

繰り返しになりますが、9月入学自体には賛成ですが、半年間の強制留年を伴う9月入学には反対です。オンライン授業等で代替が可能なのにもかかわらず、留年させる合理性は無いと考えているからです。

この投稿は、文科省の官僚たちが大衆迎合の政治家からの圧力に抗う術を準備することを目的にしています。

賛同いただける方は、是非、友人や知人にこの考えを共有していただければ幸いです。

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