大学無償化にかかる費用
2017/10/11
最近、大学無償化にむけての議論が活発化してきました。無償化を進める前に、レベルの低い大学を淘汰することが優先事項だと思いますが、世の中で議論されていることの大半は憲法に記載すべきかどうかや財源をどうすべきかといった点が多く、本来協議すべき論点がずれていると感じています。
大学を無償化すれば、国の負担は加速度的に増加し、日本が財政破たんする方向へ大きく前進してしまうことになります。こういった事態に陥るのを防ぐため、各種報道で発言している方々が、自分の既得権益を守るために動いている人なのか、それとも日本の将来のために合理的な政策を推進している方なのかの判断材料の一つをこの投稿で提供したいと思います。
目次
大学無償化に必用な金額(新聞報道)
ロイターの報道によれば、大学の無償化に必用な金額は年3.1兆円とのことです。また、政府関係者からは全ての教育を無償化するには毎年10兆円必要との発言もなされているとのことです。
文部科学省の試算によると、幼児教育から大学まで授業料無償化に必用な年間予算額は、幼児教育が7,000億円、私立小中学校が数百億円、高校が3,000億円、大学が3.1兆円の合計4.1兆円。
(中略)
自民党教育再生本部の幹部は「5兆円規模では全く不足」と指摘。政府関係者の1人は「10兆円程度との案もある」と述べている。
出典: ロイター 2017年3月14日 「焦点:自民特命チームが「教育国債」有力視、5-10兆円案も」より一部抜粋
大学無償化に必用な金額(文部科学省の資料)
文部科学省等のウェブサイトで公表されている資料によれば、大学無償化に必用な金額は年3.0兆円(学費の合計額)と試算できます。
国立大学の収入の内訳
収入合計: 30,702億円
内訳
- 運営費交付金(補助金):10,828億円
- 学生納付金(学費): 3,407億円
- (附属病院からの収入: 9,939億円)
出典: 文部科学省 国立大学法人等の平成26事業年度決算について
公立大学の収入の内訳
収入合計: 3,193億円
内訳
- 補助金: 1,794億円
- 授業料/入学金等(学費): 881億円
出典: 一般社団法人公立大学協会 大学基本情報(2015)
私立大学の収入の内訳
収入合計: 33,234億円
内訳
- 補助金: 3,388億円
- 学生納付金(学費): 25,355億円
出典: 文部科学省 平成28年度学校法人監事研修会 私学行政の現状と課題等について
国公立大学も私立大学も、おおよそ3兆円の売り上げがあります。大学の収支はほぼ均衡しており、それぞれ3兆円程度の費用がかかっています。
そして、上記収益の内訳に書いてある通り、学生が負担している費用(学費)の合計は約3.0兆円になります。
尚、私立大学における附属病院からの収入は約1.3兆円あります(注)。これは上記私立大学の収入から除外されていると思われるため、病院の利益を私立大学の学費を補えば、学生が払う費用を数千億円減らすことが可能と思われます。
いずれにしても、大学無償化を実現するには3兆円弱の費用が追加で必要だと言えそうです。
ロイターによるインタビュー記事にしろ、上記文部科学省のデータによる試算にしろ、大学無償化には3兆円前後の費用がかかるものと思われます。
既得権益追及派 vs 合理的政策推進派の判断材料
自民党、日本維新の会、民進党等で大学無償化について様々な主張がなされています。また、マスコミを通じて学者等の意見も各種報道されています。大学無償化には利害関係者が多く存在するため、このような報道を見る際は注意する必要があります。
例えば、自民党の文教族や大学関係者は既得権益を拡大すべく、大学無償化を推進するインセンティブが働きます。特にFランク大学で生計を立てている教授や関係者は、志願者の大幅増加が見込めるため、大学無償化は悲願だと推測されます。
文部科学省としても大学に通う学生が増え、学校が儲かるようになれば天下り先のポストも増えるため、大学無償化を歓迎するインセンティブが生じてしまいます。
一方で、財務省からすれば国の財政負担が増えるため、無償化に合理性が無い限りは反対するという立場にあります。
この投稿では大学無償化にどの程度の費用が必要なのかを複数のソースを活用して提示しました。今後、マスコミの報道等で、無償化にいくら必要なのかが報じられた際の参考にして頂ければと存じます。
例えば、「大学無償化には10兆円必要だ」と主張している人は、既得権益を守るために誇張した数字を掲げていると推測できます。その人が、どういった組織に属しており、どういった根拠で10兆円も必要と訴えているのかを探ることで、その人がどの程度信用できる人なのか、日本のために合理的な政策を推進することが出来る人なのかの判断材料にすることが出来ます。
この投稿が、そういった判断材料の一助になれば幸いです。そして、大学無償化の議論が合理性のある方向に進むことを願っています。
尚このブログではこれまでに大学無償化に関する記事を書いてきました。興味のある方は是非以下の投稿もご覧ください。