経済衰退が招いた待機児童問題
待機児童問題や保育園不足の解消へ向けて政府は様々な施策を打ち出していますが、この問題を解決するにはまだまだ多くのハードルが残されている状況の様です。今現在、未就学児を育てている方々は、自分が子供の頃に保育園が不足しているという話は聞いたことが無かったのではないでしょうか?その後、少子化が進んできている中で、保育園が不足していることを不思議に思ったことがある方は少なからずいるのではないでしょうか?
直近20年のデータを見ると、共働き世帯が増えている一方で、世帯収入は減少しているという事実があります。このデータからは、生活を支えるために共働きせざるを得ない世帯が増えたため、保育園不足に陥ったのではないかということが示唆されます。
この投稿では、上記データの詳細に触れつつ、待機児童問題の本質は何なのかについて私なりの考えをまとめました。これにより、いま議論されている解決策を中長期的な観点でとらえてもらう一助となればと思います。
目次
共働き世帯の所得推移
厚生労働省の資料によれば、1994年の1世帯当たり平均所得は664万円であったのに対し、2014年の平均所得は542百万円に減少しています。直近20年間で世帯所得は102万円の減少に見舞われています。
出典: 厚生労働省 国民生活基礎調査の概況(平成27年) II 各種世帯の所得等の状況
専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移
労働政策研究・研修機構の資料によれば、1994年に専業主婦世帯は930万世帯あった状況から徐々に減少し、2014年には720世帯となりました。一方で、共働き世帯は1994年に943万世帯であった状況から徐々に増え、2014年には1,077万世帯へ増加しました。
言い換えると、直近の20年間で共働き世帯の割合は、50%から60%へ増えたということになります。
出典: 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 早わかり グラフで見る長期労働統計 図12 専業主婦世帯と共働き世帯
共働き世帯数の増加と世帯所得の減少
以上のデータから、直近20年間で共働きが増えているにもかかわらず、世帯収入は減少しているということが読み取れます。
言い換えると、これまで日本の平均的な家庭では夫一人の収入で生活できていたのに、共働きをしないと生活が成り立たない世帯が増えてきたと言えそうです。
なぜこのようなことになっているのでしょうか?
理由の一つとして考えられるのは、日本全体が20年前と比べて貧乏になったということではないでしょうか。つまり、一人当たりが生み出す付加価値が下がり、給料が下がったということです。非正規雇用が増えたという言い方もできます。企業の競争力が下がったという言い方もできます。
待機児童問題の本質
このように、共働き夫婦は年々増加してきており、そのため保育園も不足しているという問題が生じています。そして、世帯所得の推移から分かるように、共働きになっても世帯所得が上がっていないというのが直近20年間の動向です。
このデータから、待機児童問題の本質は、以下の2点ではないかと私は考えます。
- 夫一人の収入では生活できないため、未就学児を保育園に預けざるを得ない世帯が増えた
- 都市部への人口集中が進み過ぎたため、保育園の増設が間に合っていない
では、どうすればこれら二つの本質的な問題を解決できるのでしょうか?
前者(夫の収入)については、結局のところ日本経済の発展や企業の競争力を高めるといったことになりますが、この手段については様々ですのでここでは割愛します。
後者(人口集中による保育園不足)については、ここで一つのアイデアを紹介いたします。
保育園不足を緩和するアイデア
「親と同居した場合に税の優遇を受けられる施策を実施する」というアイデアについて、その実効性を検証してみたいと思います。
親と同居する世帯が減税されるアイデアの具体的内容
- 未就学児がいる世帯が親と同居した場合、所得税等の減額という恩恵を受けられるようにする
- 減額される金額は、未就学児1人を保育園に預けるために保育園の施設や保育士に係る費用と同額とする
- 未就学児を保育園に預けている場合は、この減税の対象外とする
- 潜脱行為を防ぐため、親一人だけと同居する場合は、減税の対象外とする(親が死別や離婚した場合は除く)
メリット
- 保育園不足問題の解決に繋がる
- 子どもを自分の親に預けられるため、産後の社会復帰が容易となる
- 親との同居を前提とした住居に住むため、そのまま同居を継続してくれた場合、老人介護施設の不足問題の緩和にも繋がる
- 未就学児にとっては、自分の両親に加え祖父母とも接することになる。多くの大人と接するため言語機能の発達や社会性を身に付ける機会に恵まれる
デメリット/課題
- 通勤する必要のない年齢層である親(祖父母)が都市部に住むことを促進するため、通勤に便利な都市部の住宅に対する需要が増し、人口集中の問題がさらに深刻化する
- 減税目的で親と同居した世帯にとっては、子どもが小学校に入ると減税のメリットが無くなってしまう
- 家賃の高い都市部で親と同居するのは費用対効果が悪い
- 親と同居できる物件数の不足
社会問題の解決は難しい
親と同居する世帯が減税されるというアイデアは、各種メリットが想定されるものの、上記の様なデメリットや課題をカバーできる程のメリットではないことが想定されるため、現実的な解決策にはならないと思います。
保育園不足の問題や、その背景にある世帯所得の減少、共働き世帯の増加に対応する施策を整えることはとても難しいことがこの例からも垣間見られるのではないでしょうか。
待機児童問題は、短期的には保育園の設置、保育士の待遇向上等の対策で凌ぐのが有効な対策だと思われますが、中長期的な対策としては、その根本である世帯所得の減少、その対応として共働きにならざるを得ない日本経済の衰退、都市部への人口集中といった様々な問題が絡んでいると思われます。
こういった問題を解決する役割を担っているのが各省庁であり、そこで働いている官僚には高い能力が求められます。優秀な人材を各省庁に集めるためには、官僚の待遇改善も併せて考える必要があろうかと存じます(参考:天下りの問題点と解決策)。
待機児童問題の解決に向けて日本経済の衰退、人口集中、優秀な官僚の確保といった観点も加えると、中長期的な視点に立ったより有意義な議論が出来るのではないでしょうか。