天下りの問題点と解決策

      2017/03/11

文部科学省の元局長が退職後に早稲田大学の再就職をしたことについて、同省の幹部らが組織的に天下りを斡旋していたことが明らかになりました。

国家公務員法では官僚による天下りの斡旋を禁止しています。そのため、政府は2017年1月20日の閣議で、文部科学省のトップである事務次官を退任させることを決めました。

さらに、文科省も事務次官を含む幹部ら7人を懲戒処分とする方針を示しています。

 

この投稿では、そもそも何故天下りが問題なのかの論点を整理し、問題解決のためにはどういった方法があるのかについて方向性を示すことを試みています。

結論としては、以下の通りです。

天下りは癒着や不公正を招く原因となり得るため一定の規制をかけるべきだが、官僚組織を健全に保つためにはある程度必要な仕組みである。「官僚を目指す優秀な人材の確保」と「癒着や不公正の発生を防ぐこと」を両立させるためには、官僚が置かれている状況(転職活動の規制、給与水準、労働時間)も加味した議論をしなければ、根本的な解決をするのは難しい。

 

それでは、以下に順を追って説明していきます。

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天下りとは

天下りとは、各省庁のキャリア官僚が退職した後、民間企業、特殊法人、独立行政法人等に幹部として再就職し、そこで多額の報酬や退職金などを得る仕組みのことを言います。

天下りが横行すると、特定の業界団体や企業に便宜を図ってしまうことで非効率的で不公平な社会になるといった問題が生じてしまうと言われています。

さらに、天下りによる退職金や報酬が世の中の常識からして不当に高すぎるとして、マスコミ等が批判している報道がしばしば見受けられます。

 

キャリア官僚達の実態 ~入省、出世、肩たたき~

キャリア官僚とは、国家公務員Ⅰ種合格者で本庁採用者のことを言います。殆どが東大卒で、各省庁で毎年20~30人程度しか採用されないとても狭き門です。

各省庁で働くキャリア官僚の多くは、40代後半~50歳くらいになると、退職を推奨するいわゆる肩たたきが始まると言われています。

キャリア官僚の方々が肩たたきにあうと省庁を退職することを余儀なくされ、官庁と関係の深い民間企業や特殊法人等への天下りが行われることとなります。

 

尚、元経済産業相の官僚であった宇佐美典也氏によれば、次のような趣旨の説明をしています。

  • 国家公務員は転職活動を規制されていて、失業保険も無い
  • もし転職活動の自由を認めた場合は、課長クラスにもなれば多くの企業とつながりを持っているので、関係企業や団体との癒着が今よりもっと横行してしまう
  • 早い人で40代後半~50歳くらいにある日突然呼びだされて退官を告げられる。それから2週間~1ヶ月くらいで去らなければならない
  • 日本の労働法制だといきなり解雇することは難しく、居座ろうと思えば官庁に残ることが可能。その場合は、何も仕事がない部署(窓際部署)へ異動させられて、辞めるまで干されることとなる
  • 天下りの議論をするときは、憲法上認められている権利の制限と、官僚が置かれている現実の生活や予測される行動パターンとのバランスを考える必要がある

 

天下りのメリットとデメリット

では、天下りのメリットとデメリットをここで整理してみたいと思います。

メリット

  • 天下りによって上のポストが空き、優秀な若い官僚が適した地位に就くことが出来る。官僚組織の若返りが期待できる
  • 優秀な人材(官僚)を民間でも活用する機会を作る。例えば、中小企業へ天下りした場合、その官僚が省庁勤めの時に築いていたネットワークを活用することで、小さな会社であっても大手企業と競えるようになることが期待できる
  • 民間企業と行政の意思疎通が円滑になる
  • 天下れば高額の給料にありつけるというインセンティブにより、優秀な者が集まる

 

デメリット

  • 天下りにより汚職や癒着が発生する。そのため、天下りによって不必要な規制が作られてしまったり、必要な規制が適切に作られなくなってしまったりする
  • 特定の業界団体や企業に便宜が図られることで、非効率的で不公平な社会になる
  • 天下りをさせるために無駄なポストが出来てしまう。それにより税金の無駄遣いが発生してしまう

 

キャリア官僚の年収はいくらにするのが適切か?

天下り自体は上記の様なデメリットがあり、一定の規制が設けられています。しかし、あまり規制し過ぎてしまうと、官僚を目指そうとする優秀な人材が民間企業へ流れてしまうデメリットも想定されます。

天下りでは、「不当に高い報酬」に注目する報道を多く見かけます。そこで、そもそもキャリア官僚が本来もらうべき適切な報酬はいくらなのかについて整理してみたいと思います。

 

経済産業省の元官僚である宇佐美典也氏によれば、官僚の給料は概ね以下の通りの様です。

肩書(勤続年数、年齢) 給料(額面)
企画官(18年目:40歳) 900万円
課長(23年目:45歳) 1,100~1,400万円
審議官(28年目:50歳) 1,500万円~1,800万円
局長(30年目:52歳) 1,800~2,000万円
事務次官(33年目:55歳) 2,500万円

(出典: みんなの介護ウェブサイト「宇佐美典也の質問箱」より)

 

国税庁が発表したデータによれば、2015年における日本の平均年収は420万円でした。それに比べると官僚の給料はかなり恵まれている様にも見えますが、果たしてそれは正しい解釈なのでしょうか。

 

キャリア官僚になる方々は、東大の中でもさらに各省庁の採用試験や面接を突破できたエリート中のエリートというのが実態です。そういった人たちからすれば、人気の高い民間企業から内定をもらうことはそれほどハードルの高いものではありません。

つまり、官僚の給料と比較すべきなのは、人気の高い民間企業の給料ということになります。

そこで、この投稿では全上場企業約3,600社のうち、平均年収がトップ30位の企業と比較してみます。

この30社の平均年収を計算すると、1,374万円で、平均年齢は42.3歳でした。(出典: 東洋経済オンライン2016年5月23日)

 

上の表に照らし合わせると、トップ30企業の平均年齢である42.3歳の時、官僚であれば1,000万円程度の年収が得られていると推測されます。

官僚は福利厚生が充実しているという話もよくされるので、その点を考慮したとしても民間企業とは実質的な年収が平均で3割程度(約300万円)少ないと見積もって良いのではないかと思います。

 

22歳から60歳の38年間勤務すると仮定した場合、生涯賃金は1億1,400万円少ないと試算できます。

38年×300万円 = 1億1,400万円

 

また、各省庁のキャリア官僚になれる人材は、ゴールドマンサックスやマッキンゼーといった世界的に有名な一流企業でも活躍できる人材が多くいます。

こういったキャリアを選択する人は、うまくいけば30代前半で年収1億円を超える人も結構います。

 

こういった魅力的な選択肢を選べる立場にある官僚の立場を鑑みると、彼らの給料は決して高くないと言えるのではないでしょうか。

 

尚、元官僚である宇佐美典也氏のブログ「三十路の官僚のブログ」では、次のような記載がなされています。

官僚の1年目は死ぬほどきつくて、馬車馬のごとく働かされるわ毎日怒鳴られるわ残業でないわ政治家の秘書に小馬鹿にされるわ、正直地獄です。月500時間働いて手取り月27~28万ってのもざらです。

 

官僚は給料が安いのみならず、労働時間も長いことが伺えます。

 

天下り問題を解決するアイデア

では、天下りの問題を解決するにはどうすればよいのでしょうか。私なりに考えたアイデアをいくつか紹介させていただきます。

 

アイデア①

キャリア官僚の給料を2割上げる。それと同時に天下りの斡旋や天下り行為の規制を徹底し、違反者の罰則を現状よりも重くする。

先程述べたように、官僚の給料は、人気のある民間企業と比べて平均で3割程度少ないのが現状です。この差を一定程度解消することで、優秀な人材が官僚を目指す仕組みを維持します。また、公務員は雇用が保障されている点、日本を背負って仕事ができる魅力的な職業である点から、民間企業よりは若干安い水準に設定しています。

 

アイデア②

45歳以上の官僚が(肩たたきで)退職する際、1年間の有給休暇を取得できるものとする

雇用保険が無い官僚を守るというのがこのアイデアの趣旨です。1年間にすべきかどうかは議論の余地がありますが、民間企業であれば常に次の仕事を探しながら仕事を続けられることを鑑みれば、ある程度長めの転職活動期間を設定するべきではないかと思います。「休暇」とすることで実態としては退職となり、それまでの地位を悪用した就職活動を抑制する効果も期待できます。さらに、1年間の猶予があるため、天下りを組織的に斡旋しなくても自力で次の仕事を見つけやすくなり、癒着等が生じにくくなる効果が期待されます。

 

ご参考までに、天下りに関する規制として、次のような定めがあります。民間企業に比べて、かなり厳しい制約が課されていることが伺えるかと存じます。

国家公務員法第106条の4(一部抜粋)

離職後に営利企業等の地位に就いている再就職者(元職員)が、

  • 離職後2年間、
  • 自らが離職前5年間に在職していた局等に現在所属している役職員に対し、
  • 当該営利企業等又はその子法人を相手方とする契約又は処分であって離職前5年間に担当していた職務に属するものに関して、職務上の行為をするように又はしないように要求又は依頼することは禁止されています。

参考: 内閣府 国家公務員法の再就職等規制の概要

 

最後に

ここで提示したアイデアは一例であり、他にももっと良い方法は沢山あると思います。しかし、そういった方法の議論をスタートさせるには、「キャリア官僚の適正な給与水準はいくらなのか」が世の中に正しく理解される必要があると思います。

この投稿を通じそういった理解が深まることで、天下り問題の解決に向けた建設的な議論がスタートすることを願っています。

優秀な学生が官僚を目指さなくなってしまったら、日本は間違いなく衰退します。マスコミの方々には、是非この観点にも配慮して頂いた報道を期待したいと思います。

 

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