生活保護と地方創生

   

厚生労働省の調査によれば、日本で生活保護を受けているのは現在215万人(注1)います。

一方で、東京や大阪等の都市部では、人口集中が続いており、地価の上昇、通勤の混雑といった弊害が目立ってきています。

 

「生活保護の充実」と「人口集中の緩和/過疎地問題の解消」を同時に実現する案を考えたのでここで紹介させて頂きます。それは、生活保護を受けている母子家庭で、都市部に住んでいる方を対象に、地方へ移住すれば生活保護費を上乗せするという案です。

この案について、順を追って説明していきます。

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目次

都市部で子供がいる世帯のうち、生活保護を受けている人数の推定

厚生労働省の資料によれば、生活保護を受けている世帯で、子供がいるのは15.7万世帯あり、一世帯当たり1.71人の子供がいます(注2)。

その多くがひとり親世帯ですので、一世帯は約2.71(=1.71+1)となっていると考えられます。

こう考えると、子供がいる世帯で生活保護を受けている人数は少なく見積もっても42.5万人いることになります。

15.7万世帯×2.71人/世帯=42.5万人

 

また、総務省の資料によれば、日本の都市部(東京圏、大阪圏、名古屋圏)の人口が総人口に占める割合は51.8%となっています(注3)。

 

ということは、子供がいて生活保護を受けている人数は約22万人いると推計されます。

42.5万人×51.8%=22.0万人

 

 

都市部への人口集中の問題

今日、都市部(特に東京)では人口集中が続いており、地価の上昇、通勤の混雑といった弊害が目立ってきています。

内閣府の資料(注4)によれば、人口集中による弊害として以下の様な点が指摘されています。

  • 高い地価水準
    • 東京の住宅価格は、OECD加盟国で2位
  • 長い通勤時間
    • ロンドン(約43分)、ニューヨーク(約40分)、パリ(約38分)、東京(首都圏)(約69分)
  • 災害に対する脆弱性
    • 首都直下型地震被害想定 : 経済被害約95兆円、想定死者数3万人
  • 高い賃料水準
    • オフィス賃貸料世界2位
  • 高い物価水準
    • 世界で物価が高い都市ランキングで東京は3位
  • 医療/介護施設が将来、東京等で不足するとの指摘

 

このように、都市部への人口集中は国としても解決すべき大きな問題として存在感が増している状況です。尚、この問題については、首都圏への人口集中の問題と解決策でより詳しく説明しているので、興味のある方は是非ご覧ください

 

「生活保護の充実」と「人口集中の緩和/過疎地問題の解消」を同時に実現するアイデア

このように、都市部への人口集中は大きな弊害をもたらしています。そこで、それを緩和するアイデアをここで紹介させていただきます。

それは、子供のいる生活保護受給世帯で、都市部に住んでいる方を対象とした地方移住優遇策です。

東京、名古屋、大阪等に住んでいて子供がいる生活保護受給世帯は、22万人いると推計しました。こういった方々が、過疎化や高齢化が進んだ地方に移住した場合、子供が18歳になるまではそれまで給付していた金額に2割とか3割といった追加の給付をします。引っ越し費用も国が負担します。この施策におけるメリットやデメリットを整理すると概ね以下の通りとなります。

メリット

生活保護受給世帯にとってのメリット

  • 給付金が増し生活が楽になる
  • 近所付き合いが充実しているため、周囲からの支援が得られやすくなる
  • 都市部に比べて職場と住居が近いため、子育てがしやすくなる

受け入れる側の地方にとってのメリット

  • 過疎地における人口減少対策に資する
  • 子供がその地域で家族を持つことになれば、過疎化抑止効果が倍増する
  • 高齢化対策に資する
  • 生活保護受給者が生活費をその地方で消費するため、税収増や地域活性化にも繋がる

 

デメリット

  • 国としては、生活保護費の負担が増す

 

尚、生活保護の負担は、費用の4分の3を国が負担し、地方が4分の1を負担しています。この4分の1についても、多くの地方自治体では地方交付税という形でそれに見合う金額が国から地方に支給されます。そのため、生活保護受給者が引越しをしても、受け入れる側の地方自治体は殆ど追加負担が生じない仕組みとなっています。

 

アイデア実現に向けた課題

このアイデアを実現させるために解決すべき課題は以下のものが想定されます。

財源をどうするか?

地方に移住する生活保護家庭が増えれば、それに応じて支給額の負担が増します。この財源をどうすればよいのかという課題があります。

財源の考え方として、この施策でメリットを享受するところが一部費用を負担するというやり方が考えられます。生活保護世帯を受け入れた地方自治体は、地域活性化のメリットがあります。生活保護世帯がその地方で支払う家賃や生活費が地域経済発展に貢献し、税収増に寄与します。

このように考えると、受け入れ側の地方自治体が一部費用を負担する合理性があります。しかし、これだけでは財源として十分ではありません。不足分をどう手当てするのかは財務省や厚生労働省等の当事者の知見を拝借したいところです。

 

移住先の地方で仕事が見つかるか?

地方では車は生活必需品の一つとなっています。生活保護を受けている世帯は車を持っていないと想定されるため、移住先は駅に近い住居に限定されると考えられます。そして、勤務先も車が無くても通える場所でなくてはならないため、求人が少ない地方で条件に合った住居や仕事を見つけるのが難しいと考えられます

この課題を解決するには、条件に合う仕事が見つかった後に移住するという方法があります。求人を出している企業の採用担当者や、地方自治体の地域活性化担当者が都市部に赴き、地方移住希望者の面接をまとめて実施する方法が効率的なのではないでしょうか。この方法は、面接を受けるために地方に出向くお金すら重い負担となる生活保護受給者への配慮にもなります。

 

他の生活保護受給者との不公平感を解消できるか?

このアイデアを採用すると、従来から過疎地に住んでいる生活保護の有子世帯と、都市部から引っ越してきた生活保護世帯とで受給額に差が出てしまい、不公平感が生じてしまいます。

これについては、移住世帯は都市部の人口集中問題の解決に貢献したため割増の保護費を受ける権利がある、という説明により不公平感の解消を図る方法があります。

そもそも、生活保護を受けている有子世帯が、不公平感を主張できるほど生活に余裕があるとは思えないため、それ程不公平感の解消に神経質になる必要はないと予想されます。

念のため、このアイデアを実施する際は対象となる有子世帯にアンケート調査を実施し、不満のある家庭には丁寧に社会的意義を説明するという対策で十分ではないでしょうか。

 

最後に

このアイデアは、生活保護を受けている有子世帯、高齢化や過疎化に悩んでいる地方自治体、双方にとってメリットがあります。関係する各省庁の方々には是非一度検討してみてはいかがでしょうか。

 

注1 出典: 厚生労働省 被保護者調査(2016年11月分概数)

注2 出典: 厚生労働省 第25回社会保障審議会生活保護基準部会資料(2016年10月7日開催) 資料1子供の貧困対策も踏まえた有子世帯の扶助・加算の検証

注3 出典: 総務省 広域連携が困難な市町村における補完のあり方に関する研究会(第1回)2016年12月2日開催 資料7 都市部への人口集中、大都市等の増加について

注4 出典: 資料4 東京圏への人口・産業の集中等の課題について(地域の未来に関する補足資料)(内閣府事務局資料)

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