国会議員の妊娠に関する論点整理

   

鈴木貴子衆議院議員は、自身が妊娠したことを公にしました。さらに、そのことに対して非難を浴びたとブログで報告しています。

賛否両論あるようですが、物事には多面性がありその一部だけを切り取って賛成や反対の議論をしても建設的ではありません。また、国会議員が妊娠する事例はとても少なく、ルール整備がなされていない印象をうけます。

そこで、この投稿では国会議員の妊娠の是非を議論する際、どういった観点を考える必要があるのか可能な限り列挙することを試みました。

この投稿が建設的な議論の一助となれば幸いです。

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目次

国会議員の産休・育休の現状

新聞報道によれば、国会議員が産休を取得したのは、これまでに12人しかいないとのことです。そういった事情もあり、産休に関するルールはそれ程整っていないのが現状の様です。

国や自治体の議員に労働基準法は適用されず、同法などに基づく産休や育休の制度もない。自民党の橋本聖子参院議員が妊娠し、2000年に出産のため国会を3日間欠席したのがきっかけで、衆参両院の規則に欠席を認める理由として「出産」が書き加えられた。これが国会議員の「産休」の出発点で、両院の議会事務局によるとこれまでに計12人が取得。休む期間に制限はなく、これまでの例では最長でも約3カ月という。

これに対し自治体議会はまちまちだ。都道府県と政令市の議会はすべて「産休」規定を備えているが、他の市区町村では1月現在、全国1741議会のうち2割強の416議会で規定がない(内閣府調べ)。交通事故に遭った際などに適用する「事故」扱いで認めた例もある。ルール未整備の自治体の背景には、女性議員がそもそも少ないことがあるとみられる。しかし、規定があってもバッシングは起きている。

出典: 女性議員の産休 公表で批判続々 前例少なく制度整備遅れ(2017年7月23日 毎日新聞)

 

 

国会議員の産休・育休についてのルール作り

以上の通り、国会議員に対する産休の定めは17年の歴史しかなく、ルール整備が遅れています。そこで、ルールを整えるうえで、どういった観点で議論する必要があるのかについて以下可能な限り列挙してみます。

 

産休や育休を取得しても良いボーダーラインをどこに引くべきか

仮に首相が妊娠した場合、産休や育休を取ることは許容されるのでしょうか。恐らく、多くの人は非難すると思われます。では首相等の肩書が無い国会議員の場合はどうでしょうか。また、地方議員の場合はどうでしょうか?国会議員にしろ地方議員にしろ、選挙で選ばれたことに変わりはありません。しかし、首相が産休や育休を取ることが許容されないとするならば、どこかでボーダーラインを引く必要があります。そのボーダーラインはどこにすべきなのかについて議論し、事前にルールを定める必要があると思います。

当面、日本ではこのような事態は起きそうにありませんが、ニュージーランドで女性が最大野党の党首となりました。つまり、国のトップが妊娠する可能性がゼロではない事態が生じています。報道によれば、この女性議員は過去に自分の子どもが欲しいと公言していたことがあり、TV番組で「首相が産休や育休を取って良いと思うか」という質問を浴びせられました。

尚、この質問に対するきちんとした回答は当該報道からは見つけられませんでした。

「子どもを産むつもりかどうかなんて、このご時世に聞いていい質問じゃないわよ」

ニュージーランドの最大野党・労働党党首ジャシンダ・アンダーソン氏(37歳)が出演したテレビ番組で、子供を持ちたいかどうか質問され、「2017年にそんな質問は不適切」と反論した。

(中略)

(テレビ番組の出演者がアンダーソン氏に対して)「もしあなたが首相になれば、国民はあなたの意思を把握しておくべきなのではないでしょうか」と言い、「つまり、首相が産休・育休を取ってもいいと思いますか」と問いかけた。

出典: 「子ども欲しいかなんて、このご時世に聞くな。なぜなら…」NZの女性新党首がテレビで生反論(2017年8月3日 ハフィントンポスト)

 

議員としての活動時間が削減される

産休、育休により議員として働く時間が削られてしまい、票を投じてくれた有権者の期待に十分応えられないことが考えられます。

選挙で選ばれたという立場であり、任期も最長で6年なので民間企業と同じ土俵で育休や産休を論じることは出来ないと思います。

民間企業であれば、産休と育休を合わせれば数年休むことが出来ます。選挙で選ばれて国会議員となり、就任期間の半分近くを休んでしまっては、問題視される可能性が高いのではないでしょうか。

一方で、出産だけなら数日で終わりますし、産後は保育園やベビーシッター等を活用すればそれなりに議員として活動することも可能です。

このように考えると、議員として期待されている活動を維持できないほど時間が削られるのかどうかという点も議論する必要があります。

 

立候補者による事前説明・開示

立候補する時に、国民に対して妊娠する可能性について伝えていたのかどうかも重要な観点の一つ言えます。妊娠・出産により、どうしても国会を欠席する必要や議員としての活動時間を削らざるを得なくなります。それを分かったうえで国民が立候補者に投票していれば、産休・育休を取得することに何ら問題は無いと思われます。

 

有権者による推測

有権者は、立候補者の家族構成や年齢により国会議員の任期中に妊娠する可能性を推測できると考えられます。有権者に推測させることを前提とするべきか、それとも国会議員自ら任期中に妊娠・出産する可能性を明示することを前提とするべきかについて議論する必要があります。

これは、どちらが絶対に正しいと言えるものではありません。私たちがどう感じるかという主観で決まる類のもとだと言えます。有権者の推測に委ねるべきか、それとも立候補者による説明を求めるのかは議論を始めないことには世論を形成できません。

  

妊娠はほぼ100%防げる

医学が発達した現在、適切に避妊すればほぼ100%の確率で妊娠を防ぐことが出来ます。ということは、国会議員が妊娠するということは、計画的に妊娠したか、もしくは適切に避妊していなかったと言えます。

いずれにせよ、選挙活動をしていた際に、当選後に妊活をする予定であったもしくはたまたま妊娠したとしても問題ないと考えたと言えます。

このように考えると、妊娠した国会議員は次のいずれかについて説明する責任を負っていると考えられます。

  • 妊活をする予定であったにもかかわらず、選挙中に公表しなかった理由
  • 選挙中はたまたま妊娠するかもしれないと考えており、たとえ結果的に妊娠したとしても問題ないと考えた理由

 

国会議員の基本的人権

妊娠や出産は基本的人権であり、たとえ国会議員という特殊な職業であったとしても、それを制約するべきかどうかという観点があります。

 

国会議員の多様性

妊娠したら辞任しなければならないとすれば、収入が無くなってしまいます。辞任すると収入が無くなるので一般的な家庭では生活が厳しくなります。その結果、いずれ子供を産みたいと思っている女性の場合、資産家しか国会議員になれなくなってしまいます。そうなれば、国会議員の多様性が失われてしまうというデメリットが想定されます。

ご参考までにですが、日本の衆議院で女性の占める割合は9.3%であるのに対し、世界平均(下院)は23.4%とのことです(出典: 「女性議員の産休 公表で批判続々 前例少なく制度整備遅れ」2017年7月23日 毎日新聞)。海外が必ずしも正しいとは限りませんが、国会議員にもう少し多様性があっても良いかもしれません。

 

産休や育休を過度に短縮してしまうリスクへの対応

国会議員は人気商売であるため、産休や育休を過度に短縮し、出産リスクを高めたり、産後の様々なリスク(母子ともに)を高めてしまうリスクを孕んでいます。

このようなリスクを低減させるには、最低限どのくらいの期間休むことが適切なのかについてルール作りをするのが理想的だと思われます。

しかし、出産等に関するリスクは個人差があり、恐らくルールを作ることは不可能だと思われます。現実問題として、この観点でルール作りが難しいため、休暇日数の定め以外の方法で、ルール作りを得ないと思います。

母子が健康であることはとても大事なことなので、ルール作りが難しいとはいえ、この観点を挙げさせていただきました。

 

 

最後に

国会議員は担っている役割が特殊であり、労働基準法が適用されません。

以上、様々な観点を列挙してきましたが、民間企業で働いている女性とはかなり違う尺度で考える必要があることが見て取れるのではないでしょうか。

 

今後も国会議員が妊娠する局面は出てくると思います。お腹に宿したお子様が無事に生まれ、母子ともに健康であることを願うとともに、単なる誹謗中傷ではなく、各観点/論点について建設的な議論がなされることを願っています。

 - 政治

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