沖縄米軍基地問題の論点整理 ~沖縄県知事がとるべき戦略~

   

先日投開票された普天間基地の辺野古移設を巡る沖縄県民投票では、票を投じた県民の内7割超が反対するという結果となりました。

沖縄における米軍基地をどうするかについては、これまで何十年にもわたって協議が進められてきています。しかし、沖縄県在住の方々の負担解消と日本の安全保障の両方を成り立たせるところにはまだ至っていません。

この投稿では、この米軍基地問題における論点を整理し、沖縄県知事がどういった戦略/行動をとるべきかについて私なりの考えをまとめました。

結論を先に記すと以下の通りとなります。

  • 普天間基地を辺野古へ移転する案を問う住民投票では、票を投じた県民の7割超が反対だった
  • この様な県民の意見がある一方で中国が沖縄を狙っているリスクも指摘されており、米軍基地の移設は日本の安全保障と一緒に考える必要がある
  • そもそも辺野古移設に反対する主な理由は、沖縄に米軍基地が集中している点、日米地位協定における不条理、の2点
  • 沖縄県知事の玉城デニー氏は辺野古移設に反対だが代替案は示していない。為政者としては代替案を示すべき。そうしないと国との交渉も進まず問題の解決も出来ない
  • 日本政府としては日米地位協定の改定について色々と取り組んできたが実現できなかったというのが実態
  • 日米地位協定を改定できない主な理由としては、日本国内の利害調整が難しい点、米国から大きな対価が求められる点、が挙げられる

以上のことを踏まえて、玉城知事が取るべき行動は以下の通り。

  • 県外移設については各都道府県と個別に協議し、米軍基地を受け入れてくれる地域を探す。移設先にとってのメリットも訴える
  • 日米地位協定の改定については、日本政府にとってのメリットと米国にとってのメリットを整理して、日本政府に再度交渉するべく訴える
  • 上記二つの行動を既に取っているもしくは取っても状況に変化が無かった場合、それまでの交渉の過程等を(個別名は伏せて)開示し、沖縄県の窮状を日本国民に訴えかける。こうすることで共感者/賛同者を増やし政治家を動かす

以下順を追って説明します。

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目次

県民投票vs安全保障(中国リスク)

2019年2月24日に投開票された沖縄普天間基地の辺野古移設を巡る県民投票で、7割超が反対するという結果となりました。

一方で、中国が沖縄を狙っているというリスクも指摘されています。これは日経新聞でも報じられており、日本政府としてはロシアによるクリミア半島侵略のような事態も想定した安全保障体制を構築する対応が求められているものと考えられます。

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米政府は24日の米軍普天間基地(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設を巡る県民投票が7割超の反対という結果になったものの、移設計画は堅持する方針だ。移設を決めた1996年の日米合意から20年あまりで中国の脅威は増大し、北朝鮮は事実上の核保有国となった。米軍が沖縄に基地を構える戦略拠点の重要性は増している。

(中略)

米外交筋は「橋本龍太郎首相や小渕恵三首相は地元との対話に自ら乗り出して熱心に取り組んでいたが、安倍晋三首相はそのようにみえない」と危惧する。

県民の安倍政権や米国への反感の高まりは、中国を利することになりかねない。前出の元米政府高官は昨年、中国を訪問した際に中国共産党幹部からこう告げられて言葉を失ったという。「沖縄はもとは中国のものだった。いずれは取り戻さなければならない」

抑止力の維持と地元負担の軽減の両立のために日米両政府は不断の努力を続けるしかない。

出典: 「米、辺野古移設を堅持 戦略拠点の重要性増す」日本経済新聞(2019年2月26日)より一部抜粋

辺野古移転反対の理由

住宅地に隣接している普天間基地を辺野古に移設することについて、何故これほどまでに反対意見が出されるのでしょうか。

地元メディアである沖縄タイムスの記事によると、以下の様に説明されています。

  • 沖縄への過重な基地負担
  • 埋め立てによる自然破壊
  • 県内の選挙で辺野古移設反対派が勝利

また、沖縄県のウェブサイトでも辺野古移設について反対意見がある理由として以下の点を掲げ、普天間基地の県外移設を主張しています。

  • 普天間への移設は米軍基地を沖縄に固定化することに繋がる
  • そもそも米軍基地は、沖縄県民が自主的に土地を提供したわけではない
  • 環境破壊に繋がる

論理的に考えて反対理由として意味をなさないものもありますが、結局のところ、「日本全体で対応すべき基地負担が沖縄に偏っていることに我慢できない」というのが理由であり、その感情を強めている背景として「日米地位協定の不条理」があると読み取れます。

尚、米軍基地が沖縄に集中しているのは、基地に対する反対運動の鎮静化させるために1950年代~1970年代にかけて当時日本に返還される前であった沖縄に基地を移設したという背景があります。

沖縄県としては、危険な普天間基地問題の解決策として県外移転を主張しています。しかし、日本の人口約1億3,000万人に対し、沖縄県はたったの150万人弱しかいません。約1%しか人がいない沖縄県が、県にとって負担と考えている施設を県外に移させることを、国や国民感情に訴えたところで、多数決で決定される民主主義の制度では殆ど効果が無いと言えます。

普天間基地を県外に移設することを実現するためには、他のやり方を模索した方が現実的だと私は考えます。

一つは、沖縄への過重な基地負担だ。沖縄は国土面積のわずか約0.6%だが、日本の米軍専用施設・区域の約70.4%が集中している。本土の米軍専用施設・区域は87%が国有地だが、沖縄では国有地が23.4%で残りは民間か市町村の土地だ。これらは沖縄戦後、米軍占領下で住民が収容所に隔離されている間に無断で基地が建設された。

こうした歴史を背景に、県は辺野古に反対する理由を「沖縄は自ら基地を提供したことは一度としてなく、住民の意思と関わりなく建設された。土地を奪っておきながら普天間飛行場の移設は辺野古が唯一の解決策だというのは理不尽だ」と説明する。

第2の理由は辺野古の豊かな自然環境だ。辺野古にはジュゴンをはじめ、絶滅危惧種262種を含む5800種の生物が確認され、そのうち約1300種は新種の可能性がある。沖縄防衛局は新基地建設のためサンゴ約7万4千群体を移植するとし、一部を移植したが、県はすべての移植を終える前に護岸の整備や埋め立てに着手したことを問題視している。

三つ目の理由は、県内主要選挙の結果だ。知事選だけでなく衆院選でも14年に全4選挙区で辺野古反対の「オール沖縄」勢力の候補が、17年も1~3区で同勢力が当選し、4区は自民候補が抑えた。16年6月の県議選は県政与党が多数を占め、同7月の参院選も辺野古反対の候補が大勝した。

出典: 「なぜ沖縄県は辺野古に反対なの?」 沖縄タイムス(2019年2月22日)より一部抜粋

Q16 なぜ普天間飛行場を辺野古へ移設することに反対なのですか。

戦後71年を過ぎても日本の国土面積約0.6%の沖縄県に、約70.6%もの米軍専用施設が存在し続け、状況が改善されない中で、今後100年、200年も使われるであろう辺野古新基地ができることは、沖縄県に対し、過重な基地負担や基地負担の格差を固定化するものであり、到底容認できるものではありません。

沖縄は今日まで自ら基地を提供したことは一度としてありません。戦後の米軍占領下、住民が収容所に隔離されている間に無断で集落や畑がつぶされ、日本独立後も武装兵らによる「銃剣とブルドーザー」で居住地などが強制接収されて、住民の意思とは関わりなく、基地が次々と建設されました。

土地を奪って、今日まで住民に大きな苦しみを与えておきながら、基地が老朽化したから、世界一危険だから、普天間飛行場の移設は辺野古が唯一の解決策だから沖縄が基地を負担しろというのは、理不尽です。

一方、辺野古新基地が造られようとしている辺野古・大浦湾周辺の海域は、ジュゴンをはじめとする絶滅危惧種262種を含む5,800種以上の生物が確認され、生物種の数は国内の世界自然遺産地域を上回るもので、子や孫に誇りある豊かな自然を残すことは我々の責任です。

また、5,800種のうち、約1,300種は分類されていない生物であり、種が同定されると多くは新種の可能性があります。新基地建設は、貴重な生物多様性を失わせ、これらかけがえのない生物の存在をおびやかすものなのです。

さらに、平成26年の名護市長選挙、沖縄県知事選挙、衆議院議員選挙、平成28年の県議会議員選挙、参議院議員選挙では、辺野古移設に反対する県民の民意が示されています。沖縄県は日米安全保障体制の重要性は理解していますが、県民の理解の得られない辺野古移設を強行すると、日米安全保障体制に大きな禍根を残すことになります。

沖縄県は、これらのことから辺野古への移設を反対しており、今後とも辺野古に新基地は造らせないということを県政運営の柱にし、普天間飛行場の県外移設を求めていきます

出典: 沖縄県ウェブサイト「沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A Book」より一部抜粋

実は、戦後の日本が独立を果たした1952年の当時、在日米軍の基地面積の90%は本土にあった。だが、朝鮮戦争を機に本土で高まった反戦運動や米軍演習への反対運動を鎮静化するため、1956年には岐阜県や山梨県にあった海兵隊の基地が、日本復帰前の沖縄に移された。

さらに、1960年代から70年代にかけて、首都圏の基地を大幅に削減する、いわゆる「関東計画」が実行されたこともあって、基地は沖縄に集中することになった。その結果、1970年を分岐点として在日米軍基地(米軍専用施設)の面積の割合は、沖縄が本土を上回るようになった。

出典: 「なぜ改定されないのか~日米地位協定を考える」 Yahoo!ニュース編集部(2016年8月18日)より一部抜粋

玉城デニー氏の主張 代替案の提示無し

2018年の選挙で沖縄県知事に当選した玉城デニー氏は、選挙特設ページで基地問題に関する意見として辺野古に基地を作らせないと主張していますが、代替案は提示していませんでした。

さらに、地元メディアによれば、沖縄県は被害者であり、代替案は被害者である沖縄県ではなく加害者である日本政府が出すべきだとの趣旨の主張をしています。

このロジックで、日本政府は果たして沖縄のために動いてくれるのでしょうか。繰り返しになりますが、民主主義の日本で約1%の人口しかいない県の意思を通すには、国任せではどうにもならないと思います。

民主党政権時に、県外移設について鳩山首相が案を米国に提示したものの、グーグルマップ程度の情報しか提示せず、新たな案の詳細や実現可能性についてすら提示せず、米政府から「何かの冗談」という冷ややかな受け止め方をされています。代替案を示さないということは、この時の鳩山氏と同じ結果しか生まないと思われます。

沖縄県の意向に沿って国を動かすためには、代替案の詳細や実現可能性を提示するのは基本中の基本です。日本政府に対して沖縄県が代替案を示さないのであれば、日本政府から冷ややかな受け止め方をされている可能性が高いと思われます。

もし、代替案を考案すること自体のハードルがとても高く、代替案を提示したくても出来ないということであれば、それは沖縄県の政治の怠慢と言わざるを得ません。代替案を作成する手段はいくらでもあります。もし代替案を作成する人材がいないのであれば、外部から見つけて来れば良いだけのことです。

新時代沖縄は現実的な基地返還のビジョンを提示します。

沖縄戦から70年余り、数々の苦難に見舞われても、沖縄は平和への道を歩んできました。この誇りある歴史を逆行させることなく、豊かな生活との両立の道を探ります。辺野古新基地建設反対を貫くとともに、嘉手納以南で基地の早期返還と跡地利用計画を推進し、グローバルなビジネス・センターのフロンティアを創出します。

出典: 「玉城デニー 新時代沖縄 | 2018 沖縄県知事選挙特設ページ」より一部抜粋

1. 基地問題についてはどう考えていますか?

辺野古に新基地をつくらせない。それはもうわたしの中でも、多くのみなさんの中でも共有できていて、もう「辺野古の新基地はNOだ」と。

でもいま現在では、基地で働いているひとたちの生活をどうするのといえば、働いていていいんです。

それは基地があるがゆえにそこでしか働けなかったという環境もあるでしょうし、あるいは基地で働きたいという希望もあるでしょう。

新しい基地にNOだからすべての基地に反対ということをいうかたもいらっしゃるかもしれませんが、ぼくは基地で働くかたがたが生活している環境は、支えなければいけない、ちゃんと配置転換をして、基地で働くかたがたの生活を保証する責任が国や政府にはあります。

基地で働くかたがたが基地を離れて違う仕事をしたいなと選択をすれば、今度はその職業の技術指導を受けられる、その資格を得ることができる、そういう環境をつくることも、これもじつは規則でもうすでに決められているんですね。

ですから国はその責任をしっかりと果たしていくことが戦後沖縄における基地があるゆえの苦難を背負ってきた県民に対する国の誠意ある対処だと思います。それをわたしはそこもしっかりと求めたい。

しかし新しい基地はもうこれ以上いらない。保守中道の考えかたを持っている政治に関わる人間として、ひとびとの生活、暮らしを大事にしていきたい。差別がない、区別がない、そういう社会をつくっていきたい。それを沖縄でぜひ実現していきたい。

それは翁長知事の遺志をしっかり引き継ぐことにもつながると思います。

出典: 玉城デニー 新時代沖縄 | 2018 沖縄県知事選挙特設ページ 「#新時代沖縄 インタビュー『基地問題についてはどう考えていますか?』」全発言を文字起こし

玉城氏は「辺野古移設に絶対反対」を掲げて、当選した。安倍政権が支援した前宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)氏は移設問題への態度をあいまいにして選挙戦に臨んだ。それが裏目に出た形だ。ここは政権の反省点だろう。

これから、どうなるのか。

沖縄県は8月、普天間飛行場の移設先である辺野古の埋め立て承認を撤回し、玉城氏は県の方針を追認している。

安倍政権は、裁判所に承認撤回の取り消しと、執行停止を求めて争う方針だ。国の安全保障に責任を持つ政府としては当然だが、知事になる玉城氏は法廷闘争を受けて立つだけでいいのか。

知事は住民の暮らしと安全に責任を負っている。辺野古がダメというなら、代替案を示さなければならない。だが、選挙戦で代替案は一向に示されなかった。

まさか、「世界一危険」と言われる普天間飛行場を現状のまま放置していいと考えているわけではあるまい。代替案を示せなければ、かつての鳩山由紀夫政権と同じになる。

鳩山政権は「最低でも県外」と言い続けて、答えを示せず、結局、問題解決から逃げ出してしまった。玉城氏は無責任な姿勢をまたも繰り返しているように見える。

出典: 「デニー沖縄新知事、難問は山積…辺野古ダメなら具体的な代替案を」 産経デジタル(2018年10月9日)より一部抜粋

菅義偉官房長官は22日の定例会見で、米軍普天間飛行場の返還問題について「一番の原点は普天間飛行場の危険除去と、固定化を避けることだった。残念ながら現知事から今の危険除去のためにどうするかが語られてない。残念だ」と述べ、固定化回避へ知事から提案が示されていないと批判した。24日の辺野古新基地建設に伴う埋め立ての賛否を問う県民投票の結果に関しては、改めて「粘り強く工事を進めていく」と従来姿勢を繰り返した。

出典: 「普天間返還 菅氏「代替案示せ」 知事姿勢を批判」 琉球新報(2019年2月23日)より一部抜粋

なぜ知事が提案しなければならないのか。代替案を提案するとすれば、それは県ではなく政府の側である。

改めて確認しておかなければならない。沖縄の米軍基地は、沖縄戦のさなかに住民を収容所に押し込んだまま、土地を奪い建設が始まった。普天間飛行場もその一つだ。さらに1950年代に山梨県、岐阜県から海兵隊が移ってきた。日本各地で反基地闘争が盛んになっていたことが背景にあった。

この歴史を踏まえれば、普天間飛行場返還の条件として新基地を要求するのは、強盗が「奪ったものを返してやるから代わりを寄こせ」と言っているのと同じであろう。

沖縄に米海兵隊が常駐する必要があるのかどうかも冷静に議論すべきだ。現代の戦争では海兵隊は緊急展開部隊ではなくなり、その輸送を担う艦船も沖縄にない。軍事的に見て沖縄に常駐する必然性がないことは専門家の常識だ。

沖縄の基地問題は普天間飛行場だけではない。国土の約0・6%に約70%の米軍専用施設が集中し、戦後73年たってもその状態が続いているという過重負担の歴史的集積こそ、この問題の本質だ。普天間飛行場の代替施設がどうしても必要なら、沖縄以外の全国で適地を探すべきだ。

出典:「<社説>辺野古集中協議で合意 代替案示すべきは政府だ」琉球新報(2018年11月7日)より一部抜粋

その鳩山首相は12日、核安全サミット出席のため、ワシントンに向かった。夕食会で隣席のオバマ大統領に徳之島への移設案などの検討状況を説明し、理解をもとめるつもりでいる。

だが、米政府は「新たな案の詳細や実現可能性を示さず、グーグルの地図ぐらいしか出してこない」と反発し、日本政府の案を「some kind of a joke」(何かの冗談)と冷ややかに受け止めている

出典: 「普天間 出口なき迷路」 読売新聞(2010年4月13日)より一部抜粋

 

日米地位協定の改定に取り組んできた軌跡

実は、これまで国の政治家も日米地位協定の改定に取り組んできた経緯があります。

2003年には、与党(自民党)が渉外知事会とも調整を行い、「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」として改定案を作成しました。

尚、「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」の設立には、河野太郎衆議院議員(2018年3月現在外務大臣)が幹事長を務め、この改定案をまとめました。平時においては米軍人も日本の法律に従わせるという趣旨の改定案の様です。

その後、与党(民主党の連立)でも日米地位協定の改定に向けた方針が示されました。

しかし、ご案内の通り現時点では日米地位協定の改定にまでは至っていない状況です。

 

日米地位協定の改定に向けた政府の取り組み

2002年7月23日 「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」(自民党)設立
2003年2月12日 渉外知事会が、「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」と意見交換会を開催
2003年5月15日 「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」が総会で日米地位協定改定案を決定
2004年4月30日 「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」が米国務省及び国防総省に、日米地位協定の改定案を提出し取り組みを要請
2009年9月9日 民主党、社会民主党及び国民新党の与党三党連立政権合意で、「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」ことが示された

注: 渉外知事会とは米軍基地が所在する15の都道府県で構成する協議会

出典: 沖縄県ウェブサイト 「沖縄の米軍基地(平成30年12月) 第4章【基地問題への取組等】」

なぜ、他国の地位協定の実情を秘密にしなければならないのか。おそらく、公表すると、「一般国際法上、外国軍隊には国内法は適用されない」「日米地位協定は他の地位協定と比べて不利ではない」という日本政府の主張が崩れるから秘密にしているのだろう。

だが、河野太郎外務大臣には、2000年代初めに自民党の日米地位協定の改定を求める議員連盟の幹事長を務め、改定案をまとめた過去がある

当時、河野氏は「平時には、米軍人は皆きちんと日本の法律に従ってもらいます、ということをちゃんとやらなければいけない」と発言している。実際、議員連盟がまとめた改定案も、この考え方を基本にしている。

3月20日の衆議院安全保障委員会で、元沖縄防衛局長で昨年の総選挙で希望の党から国会議員になった井上一徳氏が河野氏に、当時の改定案について外務大臣としてどう思うかを尋ねたところ、「なかなか案としてはいい案なんではないかと思っている」と答えた。

出典: 「沖縄県の最新報告書で判明した、日本と米軍「やっぱり異常な関係」」 現代ビジネス(2018年4月5日)より一部抜粋

 

米国-他国間における地位協定との比較

米国との日米地位協定の改定に向けた交渉は、今のところ成功していない様です。その背景を理解するために、他国における米国との地位協定と、日米地位協定を比較してみたいと思います。

まず、米国の軍人が犯罪を犯した場合、どのタイミングで身柄を現地の国に引き渡すのかについてですが、日本、NATO、韓国は容疑者が起訴されるまでは米軍側が身柄を拘束します。一方で、ドイツでは裁判が終わるまで米軍側が身柄を拘束できるという協定となっています。

つまり、身柄の引き渡し時期についてドイツは日本等より不利な定めになっています。尚、緊急事態であれば米軍基地に立ち入ることができるという定めや、日本では認められていない米軍の訓練や演習時にドイツの国内法が適用されるという定めもあります。

このように各事項において他国の地位協定と日本の地位協定の優劣を単純に比較は出来ない状況です。更に、日本は憲法9条の制約があり、有事における在日米軍の指揮権を日本が持つことが出来ません。こういった背景も地位協定の条件として複雑に影響を受けています。

 

米国側が日米地位協定の改定に応じない大きな理由の一つとして、日本の刑事訴訟法が世界基準と比べて整備されていない点が挙げられます。

例えば、多くの国において被疑者が警察の取り調べを受ける際、弁護士の立ち合いが認められていますが、日本ではそれが認められていません。

憲法9条や刑事訴訟法が弊害となって、日米地位協定の改定が出来ないと言うのであれば、次のような解決策も考えられます。

  • 憲法9条が弊害となって米軍の軍事演習を規制する権限が日本に与えられない(騒音被害等を被る)というのであれば、有事の指揮権を米軍が維持し、平時は日本がコントロールできるルールとする
  • 刑事訴訟法が弊害となって、被疑者の身柄を米国側が拘束し続けると言うのであれば、在日米軍に限っては、警察の取り調べ時に弁護士を経ち合わせる等米国の刑事訴訟法に則った権利を被疑者に与え、その代わりに身柄は日本の警察が直ちに拘束する。こうすることで事件解明の迅速化を図る

日米の安保条約や地位協定といった日米政治外交史を研究してきた法政大学法学部講師の明田川融さんによると、米軍は、ドイツやイタリア、韓国、それにイラクやアフガニスタンなど40カ国以上の国々と地位協定を結んでいる。そのうち、基地内に逃げ込んだ容疑者の扱いをめぐって米国と対等な協定を結んでいるのはドイツだけだ、という。

「ドイツの場合はボン補足協定というのを結んでいますけども、そこにはこんな規定があるんですね。緊急に犯人を逮捕したり捜査したりする必要があれば、事前通告なしで米軍基地に立ち入ることができる、と」

一方、日米地位協定では「第17条5項C」により、容疑者が米軍基地に逃げ込んでしまえば、日本の警察は基地に立ち入って逮捕したり尋問したりできないことになっている。容疑者にとっては都合がいいが、被害者にとっては理不尽といえる内容だ。

(中略)

一方、アメリカ側は、日米地位協定の「第17条」問題について、どう捉えているのか。日米関係や安全保障政策、戦後沖縄史などの研究者で、去年までの6年間、沖縄の米海兵隊で政治顧問をしてきたロバート・エルドリッヂさんに取材した。

日本国内で起きた事件ならば、日本の国内法で裁くことが自然ではないのか。こう質問すると、エルドリッヂさんからはこう回答が返ってきた。

「(日本の刑事訴訟法によると)基地の外で逮捕されたアメリカ人は、日本の警察署、留置所に送られて、取り調べを(最長で)23日間ずっと受けること(が可能)になっている。弁護士が(取り調べに)立ち会えるといった世界の常識を、なぜ日本は求めないのか。もし、地位協定の改定そのものを目指すのであれば、まず日本は、そのことを改善しなければいけないと思います」

エルドリッヂさんは、日本の刑事司法制度に不備があると指摘してきたのだ。

日本では、犯罪の容疑者は、逮捕・勾留によって起訴されるまで最長23日間の身柄拘束を受ける。その間、弁護士の立ち会いがない状態で、捜査機関の取り調べを受けなければいけない点に問題があると、エルドリッヂさんは批判する。日米地位協定の「刑事裁判権」の規定を改定する前に、日本の刑事訴訟法を改正すべきという主張だ。

そして、こんな苦言を呈する。

「ほとんどの日本人が『日米同盟や米軍基地はアメリカ政府が押し付けたもの』というふうに見ているので、米軍人が絡んだ事件や事故、犯罪に感情的になりやすく、けしからんと思ってしまうのではないか。しかしもう少し冷静に、世界の常識とはなにかを見る必要があるかなと思っています」

出典: 「なぜ改定されないのか~日米地位協定を考える」 Yahoo!ニュース編集部(2016年8月18日)より一部抜粋

日本が侵略される危険が迫った場合に、日米共同作戦の指揮系統をどうするのか。NATOではヨーロッパ各国が米軍の指揮権を放棄し、その代わりアメリカが各国と協議する。ドイツの場合は「二重の鍵」といわれる方式で、アメリカが核兵器をドイツ国内に配備することを公表し、その運用についてドイツ政府が拒否権をもつ。

ところが日本は憲法の建て前で軍備を持てないので、そういう協定を結ぶことができず、米軍を日本政府が指揮できない。このためアメリカが在日米軍基地の指揮権も管制権ももつ地位協定ができ、日本政府は「事前協議」を求める権利しかない

これを「対米従属」と呼ぶとすれば、それを解決する方法は安保条約を改正して、日米が互いに防衛責任をもつ相互防衛条約にすることだが、それは憲法第9条に違反する。アメリカから見ると、日本はアメリカを守る責任がないのに、アメリカが日本の防衛責任を負う安保条約は不平等条約である。つまり安保条約は、日米どちらにとっても不平等な「非対称条約」なのだ。

出典: 「不平等な日米地位協定は改正すべきだ」 アゴラ(2018年8月14日)より一部抜粋

たとえばNATO軍地位協定を見てみると、軍隊派遣国が裁判権を行使すべき被疑者(軍人・軍属)の拘禁は、それらの者の身柄が派遣国側にあるときは、「受入国により公訴が提起されるまでの間」派遣国により行われる(第7条5項(c))とあるから、これは日米間と同様である。NATO諸国のうち、とくにドイツ国内に駐留する軍隊の法的地位などを定めたいわゆるボン補足協定は、原則として被疑者(軍人・軍属・それらの家族)の拘禁は派遣国の当局が行い、ドイツ当局が被疑者を逮捕したときでも、派遣国当局の要請があるときは身柄をドイツ側から派遣国側に引き渡すことが規定されている(第22条1(b)および同2(a))。そのうえで、派遣国当局側にある被疑者の身柄は、同当局がそれらの者の身柄の拘禁を、ドイツ当局による保釈もしくは釈放または刑の執行開始まで(=裁判判決の執行開始まで)行う(第22条3)としている。これは、日米地位協定の規定よりもドイツ側にとって不利な内容といえる。ただし、ボン補足協定は、被疑者の身柄が派遣国当局にあるとき、同当局は「拘禁をいつでもドイツの当局に移すことができる」(第22条2(b)(ⅰ))とか「「特別の場合においてドイツの当局が行うことがある拘禁移転の要請に対して好意的な考慮を払う」(同(ⅱ))とも定めている。こうした点について、そもそもドイツは派遣国の軍人等によるほとんどの事件で一次裁判権を放棄している運用実態があると日本政府は説明しているが、日米間でも同様な―日本側一次裁判権放棄密約による―運用実態のあることが指摘されている。

韓国に駐留する米軍については、韓米地位協定で、韓国が裁判権を行使すべき被疑者(軍人・軍属・それらの家族)の拘禁は、「大韓民国により公訴されるまでの間」米国により行われる(第22条5(c))とあった。身柄移転のタイミングについては、日本やNATO諸国と同様の条件だったと言える。

しかし2001年1月に韓米地位協定合意議事録改定合意書が取り交わされ、重罪とされる 12の犯罪(殺人罪、強姦罪〔準強姦罪および13歳未満の者との淫行〕、身代金目的略取誘拐罪、麻薬取引罪、販売目的麻薬製造罪、放火罪、凶器使用強盗罪、上記の罪の未遂罪、傷害致死罪、飲酒運転致死罪、死亡事故現場逃走罪、上記の罪より軽度の、1または2以上の罪を含む犯罪)については―重大性と理由を考慮しつつ―起訴時または起訴後に、他の犯罪については起訴後に米国側から韓国側へ拘禁の身柄引き渡しが行われることとなった。

その後、2011年から1半ほどの間に、相次ぐ女性への強盗強かん事件を含む米軍がらみの犯罪が激発し、地位協定の改善や韓国側司法権の拡大などを求める声が高まった。そのため韓米両政府は2012年5月、新たな措置をとるにいたる。韓米地位協定に附随する合同委員会合意にある、起訴前でも韓国側が身柄引き渡しを求めれば、その要求を米国側は「好意的に考慮すべき」だが、引き渡し後は「韓国司法当局が二四時間以内に起訴しなければ釈放」する条項―これにより身柄確保や十分な初動捜査は事実上不可能であった―の撤廃などに合意したのである。さらに韓国外交通商省の担当官は、このときの合意によって、起訴前の身柄引き渡しが日米間のように殺人や強かんに限らず可能になったとも言う。

このように、日米地位協定、ボン補足協定、韓米地位協定および附随合意は、それぞれ米国との関係性や政治情勢を反映した極めてテクニカルで複雑な内容を含み、日米地位協定の被疑者身柄引き渡し条項が最も進んでいると簡単には論じられない状況にある。

出典: 「日米地位協定を考える -改定問題を中心に-」 全国知事会(2018年2月15日)より一部抜粋

沖縄県による日米地位協定の説明

沖縄県のウェブサイトを拝見したところ、ドイツと米国間の地位協定では、「米国の駐留軍に対して原則としてドイツの国内法が適用される」という説明がされていました。

これは間違った説明ではないですが、沖縄県にとって都合の良い部分のみを切り取った表現であり、1.3億人の日本人から共感や賛同を得る方法としてはあまり褒められた言い回しでは無い様に思います。

沖縄県が説明している通り、「米国の駐留軍に対して原則としてドイツの国内法が適用される」というのは事実だと思いますが、これはアメリカ軍が訓練や演習をする際にドイツの国内法が適用されることについて言及しているに過ぎません。

米国の軍人によって性犯罪が起きた際に大きな問題として取り上げられる「身柄の引き渡し時期」については、ドイツはむしろ他の国よりも不利な地位協定を結んでいます。

政治家がパフォーマンスのためにこのような恣意的な表現をすることはその役割を鑑みると仕方のないことだと思いますが、沖縄県という役所が偏った表現を用いてしまうと、他の主張についてもすべて疑いの目を向けられてしまい、他県からの共感を得る可能性が下がってしまい、非常にもったいないことだと思います。

Q10 日米地位協定の改定は難しいのではないですか。

日米地位協定は、昭和35年(1960年)に締結されて以降、一度も改定されたことがありません。

しかし、日本と同じように米国と地位協定を締結しているドイツや韓国では、改定を実現させています。

特にドイツでは、昭和34年(1959年)に締結されたボン補足協定をこれまで3度も改定しており、駐留軍に対しても原則としてドイツの国内法が適用されることが明記されているほか、環境保全を目的とする詳細な規定が設けられています。

出典: 沖縄県ウェブサイト「沖縄から伝えたい。米軍基地の話。Q&A Book」より一部抜粋

日米地位協定が改定されない理由

全国の都道府県知事で構成される連合組織で、全国知事会というものがあります。主に地方行財政に関し国への要望や政策提言を行う役割を担っている組織です。

この組織でも日米地位協定の改定に関する深い考察が報告されています。全都道府県で構成されている組織であるため「中立」的な立場であることが期待されます。情報も偏りが無く比較的信頼できるものだと思われるためここで紹介させていただきます。

当該組織で開示されている資料によれば、これまで日米地位協定が改定されてこなかった背景について以下の点を挙げています。

  • 利害調整が複雑
  • 他国と米国間の地位協定への波及を懸念
  • 米国から改定の対価を要求されるリスク
  • 米国による日本に対する防衛意識の減退リスク
  • 日米地位協定が他国-米国間の協定よりも日本にとって最も有利にできているという認識

改定不要論の背景

① 利害調整の複雑さ

こうして、改定を求める声が高まりをみせたにもかかわらず両政府が運用改善という措置にとどまった理由は何だったのか。この問いに対しては、95年の事件発生直後にジョセフ・ナイ米国防総省国際安全保障担当次官補が朝日新聞社の取材に応じて述べた内容が示唆をあたえる。

ナイは、①米国が世界45の国々と地位協定を締結している、②被疑者の身柄について、日本の場合、米軍人等は起訴された段階で引き渡されることになっているが、ドイツの場合は判決が下された時点となっている、③他の地位協定と比較すれば日米が一番よくできており、地位協定を他国並みにするということは日本にとって一歩後退となるなどの点を挙げたうえで、協定改定に否定的な理由を次のように述べている。

……地位協定には刑事訴訟手続きに関する規定のほか、多くの規定が盛り込まれており、一つ変えるとすべてに手を付けることになりかねない。ありとあらゆる官庁と弁護士が入ってきてそれぞれの言い分を申し立てるだろう。地位協定は今のままにしておいて、刑事訴訟の面に問題をしぼり、それに対しては運用面で対応するのがよいと思う

地位協定の履行によって影響を受ける当事者たちが個々の利益を噴出させ、収拾のつかない事態となることへの懸念である。実際、このようなことは起こり得る。1953年に行政協定の刑事裁判権規定(第17条)を改定する過程では、外務省と法務省のあいだでかなり激しい意見対立がみられたし、大蔵省も米兵等に対する税の減免措置などについて独自に問題点を洗いだしていた。そして、1959年における行政協定から地位協定への改定過程については、外務省アメリカ局安全保障課長として交渉に携わった東郷文彦氏が以下のように回想している。

(中略)

外務省と関係省庁との調整について、東郷はもう少し詳しく続けている。

行政協定の規定するところは、軍隊構成員、軍属、家族の範囲(国内の主たる関係官庁は法務省)、施設・区域の提供、返還(施設庁)、施設・区域の管理権(施設庁、警察庁、消防庁、厚生省等)、船舶、航空機の出入国(運輸省)、航空管制(運輸省)、周波数割当(郵政省)、公益事業の利用(通産省、国鉄、電電公社)、軍人、軍属、家族の出入国(法務省)、自動車運転免許(警察庁)、関税及び通関(大蔵省)、駐留軍関係労務(労働省)、駐留軍との契約履行のために日本に在る事業者(通産省、大蔵省)、施設・区域内の米軍用販売機関、食堂、クラブ等(大蔵省、労働省)、刑事裁判権(法務省)、民事請求権(法務省)、為替管理、軍票(大蔵省)、軍事郵便局(郵政省、大蔵省)、等広汎に及んでいる。二月早々には田中参事官と私との各省歴訪も済ませ、条約課が主になって行政協定各条項の要点と問題点、類似協定での規定の仕方等一表に纏めた資料を作成した。

省庁間調整がかなり厄介な仕事であったことがうかがえる。

(中略)

2016年5月に沖縄で米軍属が犯した暴行殺人事件への対応が議論されるなかで、①や②とは異なる改定不要論の理由が示された。ある「対米交渉に関わった経験がある政府関係者」によれば、「日本が改定を求めれば、米国から必ず別の部分で大幅な譲歩を迫られる」ことになり、「形ばかりの改定なら国益にかなうとは限らない」というのである。

(中略)

② 他国への波及を懸念

ナイは、協定改定に消極的な理由を、次のようにもう一つ挙げている。

……地位協定の見直しはまた、日米関係だけでなく、同じように地位協定を結んでいる他国との関係にも影響を及ぼす。そうすると米国の立場も硬くならざるを得ない。運用手続きでの解決 を図った方がより柔軟な対応ができると思う。

(中略)

③ さらに譲歩を要求されるリスク

2016年5月に沖縄で米軍属が犯した暴行殺人事件への対応が議論されるなかで、①や②とは異なる改定不要論の理由が示された。ある「対米交渉に関わった経験がある政府関係者」によれば、「日本が改定を求めれば、米国から必ず別の部分で大幅な譲歩を迫られる」ことになり、「形ばかりの改定なら国益にかなうとは限らない」というのである。

(中略)

④ 米国の関与の減退リスク

2008年にイラクからの米軍撤退が決まったとき、イラクの土地で米軍が起こした犯罪はイラク側で裁くとイラク政府が要求したことが撤退理由の一つだと言われた。米国関与減退論は、同様に、協定の改定を提起すれば米軍の士気や日本防衛意思が減退し、同軍の削減や撤退につながるのではないかという議論、あるいは、北朝鮮の核・ミサイル開発問題や中国の軍事力の拡充と周辺地域での行動といった安全保障環境を考慮すれば、米側に有利な地位協定も日本防衛への関与を減退させない〝ツール〟として持ってくおべきだという議論である。

(中略)

⑤ 「日米協定が世界最高水準」という認識

この範疇には、「受け入れ国の観点からは、米国が世界の各国と締結している地位協定……の中で多分日本のが一番良くできている」と言及したナイの先の議論がはいる。また私は、在外大使館の大使を務めたこともある日本の著名な外交評論家が深夜の討論番組で、身柄の引き渡し規定は日米地位協定が他に比べて最も有利にできているのだから協定を改定する必要はないという趣旨を述べているのを聞いたこともある。

出典: 「日米地位協定を考える -改定問題を中心に-」 全国知事会(2018年2月15日)より一部抜粋

沖縄県知事がとるべき戦略①

以上のことを踏まえて、沖縄県知事(及び沖縄県)が取るべき行動は以下の通りだと考えます。

県外移設に向けた取り組み

受け入れてくれそうな都道府県と交渉し合意を得る。この合意を得る交渉には、米軍基地を受け入れることによるメリットを相手の都道府県に提示する必要があります。

例えば、このような事例があります。刑務所を新設するために候補地を募ったところ、地域経済活性化のために受け入れを希望する複数の地域が手を挙げたというものです。

こういった地域経済活性化をメリットとしてアピールすることも出来ますし、もし沖縄県が米軍基地の負担が大きいことの見返りとして他の都道府県よりも多くの補助金を国から受け取っているのであれば、その一部を移設先の都道府県に分けるというアピールも可能です。

話は脱線しますが、沖縄県は毎年「沖縄振興予算」で約3,000億円の補助金が他の都道府県よりも上乗せされているという見解が様々な報道等で見受けられます。

沖縄県のウェブサイトではこの点について明確な回答はされていませんが(暗に否定しています)、もし、米軍基地の負担が大きいことに対して補助金を多くもらっていないとすれば、それは沖縄県知事や県会議員の方々の怠慢と言わざるを得ません。一刻も早く国に対して補助金を得る交渉をして地域に還元するべきです。

恐らく、実態としては追加的な補助金を国から受けていると推察されます。もしそうならば、沖縄県のウェブサイト上では、きちんとその旨を説明するべきだと思います。

沖縄県としては、国から追加で補助金をもらっているということを開示してしまうと、「対価をもらっているのだから米軍基地を受け入れるべき」という国民の世論が形成されるのを恐れているのだと思います。しかし、補助金は支給されているが、それでは全然見合わないということを説明すればよいと思います。恐らくそれが実態であり、「見合わない」理由をきちんと説明することで、1.3億人の日本国民から共感を得たり理解が得たりできると思います。

日米地位協定の改定に向けた取り組み

改定は日本にとっても米国にとってもメリットがある思える案を日本政府に対して提示する必要があります。日本政府に対しては、思いやり予算やその他日米間における交渉事由にネガティブな影響が無い様な策を提案すること(例えば、沖縄県が教授している割増の補助金を思いやり予算の増額に充当する)、各省庁との調整について手間がかからない案を提示するかもしくは沖縄県自身で先に各関係省庁等と調整を進めておく、といった点がポイントになろうかと存じます。

日本にとってのメリットだけでなく、米国にとってのメリットも考えて、日本政府に提案する必要があります。例えば、米国軍人が現地の国の法律に従うことで、現地住民に対する犯罪の抑止に繋がり、アメリカとしても余計な軍事裁判を減らすことができるというメリットもアピールできると思います。このメリットを定量的に示せば、白人を説得するのには効果的だと思います。

沖縄県知事がとるべき戦略②

上記の通り、県外移設や日米地位協定の改定に向けた交渉案を説明してきましたが、これまでこのような交渉はされてこなかったのでしょうか。

そもそも、頭の良いエリート官僚を抱えている国が、米国に対してあらゆる交渉材料を準備しながら日米地位協定の改定に向けた交渉をしていないとはとても思えません。

また、歴代の沖縄県知事が、各都道府県と米軍基地の受け入れについて協議していないともとても思えません。

このように考えると、現状としては以下の様な状況だと考えるのが自然です。

  • 日米地位協定の改定を米国に要求したが、想定よりも多くの見返りを求められたため交渉がとん挫した
  • 多くの見返りを支払うよりも、沖縄県に相応の補助金を給付した方がメリットがあると日本政府が判断した
  • 沖縄県知事が各都道府県と交渉したが受け入れてくれる先を見つけることが出来なかった

このような前提に立てば、沖縄県/沖縄県知事としては次のような戦略を取るのが最善だと思います。

短期的な施策

  • これまで各都道府県と交渉したものの、受け入れを説得できなかったことを開示する
  • 基地を受け入れてくれる都道府県には、沖縄県に割り振られている補助金の一部を提供する旨を開示し、その他のメリット(経済効果)をアピールする。こうすることで、基地の受け入れに賛同する都道府県が出てくる可能性を高める

長期的な施策

  • エリートの育成に力を注ぎ、東大を経て各省庁(特に外務省、防衛省)の官僚となる人材を一人でも多く育てる。将来的にこういった人材が日米地位協定の交渉に際して策を練ったり、根回しをしたりして、改定に向けて尽力してくれる人材となる

日本国民の情に訴えても、米軍基地が近所にない地域に住んでいる多くの日本人から共感/賛同を得る効果は限定的だと思います。問題解決の第一歩として、まずは、個別の都道府県名を挙げる必要はないので、これまで基地の受け入れ交渉が成就しなかった旨をアピールすることから始めてみては如何でしょうか。

 

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