ワエル・ゴニム氏による対話型ソーシャルメディア
2020/10/14
2011年、エジプトで約30年にわたり独裁政権を維持していたムバラク大統領は、大規模なデモをきっかけとして辞任に追い込まれました。
これを俗にエジプト革命と呼んでいます。
実は、このような大規模なデモに発展させることが出来たのは、ワエル・ゴニム氏(Wael Ghonim)の貢献が大きいと言われています。
目次
エジプト革命とその後の混乱
ゴニム氏の活動、エジプト革命、その後の混乱をまとめると以下の通りとなります。
- 当時、エジプトはムバラク大統領の独裁政権だった。独裁者である大統領とその支持者が富を独占し、貧困層が人口の4割を占め、若者の失業率が3割以上という格差社会であった
- そのため、公安警察が国民の言論を監視/抑圧することで国を維持していた
- ワエル・ゴニム氏がFacebookでデモを呼びかけたことをきっかけとして、大規模なデモに発展
- その結果、約30年にわたり独裁政権を維持したムバラク大統領は、このデモをきっかけとして辞任。独裁政権が崩壊
- 独裁政権崩壊後、新しい国の体制を巡って、自由を求めるリベラル層と、政教一致を求めるイスラム組織が対立。今も混乱が続いている
革命の誤算
独裁政権が崩壊した際、エジプト国民は皆自由を手に入れたと信じ、喜んでいました。しかしそれもつかの間のことであり、新しい国でどのような体制をとるべきかを巡って、自由を求めるリベラル層と政治に宗教の考え方を取り入れたいイスラム組織が対立してしまいました。
そもそもエジプトは国民の90%がイスラム教徒のであり、彼らが信じるイスラム法を政治の規範とするのも、一定の合理性があるように思えます。
一方で、宗教は現在の社会では合理的でない部分も多く、政治に宗教を持ち込むべきでないと考えるリベラル層は政教分離を訴えました。この考え方にも一定の合理性があります。
このような両組織の対立においても、フェイスブック等のソーシャルメディアが活用されました。しかし、現在のソーシャルメディアは深い議論や相互理解の促進には向いておらず、反対意見を排し、自分と同じ意見を拡散させる仕組みになっています。
このようなソーシャルメディアの弊害も重なり、両組織の対立は未だ解消されずに混乱が続いています。
失敗を繰り返さないために
こういった経験から、ゴニム氏は新しいソーシャルメディアの仕組み作りに取り組んでいます。
以下のサイトで、エジプト革命から最近の取り組みについてプレゼンしている本人の動画をご覧いただけます。
ワエル・ゴニム: 本物の変革を促すソーシャルメディアをデザインしよう
この動画では、ゴニム氏は以下のようなソーシャルメディアの問題点を挙げ、それを解決する仕組みについて提案しています。
ソーシャルメディアの問題点
同氏はネットを使った交流の問題点を5つ指摘しています。
- 噂が流れたときに、それが真実でなかったとしても何百万人もの人に信用され広まってしまう
- 意見の合う人としか交流せず、異なった観点や意見を取り込めない
- ネット上の議論では、人はすぐに暴徒化してしまう
- ネットでの議論では簡潔でスピードが重視されてしまい、複雑な議論を苦手とする。そのため他の意見を聞いた後に自分の意見が変わることが少ない
- ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアは、「議論への参加より自分意見の拡散を」、「深い対話より軽いコメントを」促す設計になっている
新しいソーシャルメディアの仕組み
これらの問題点を解決すべく、ゴニム氏は新しいソーシャルメディアの仕組み作りに取り組んでいます。具体的には、相互理解を促し、深い議論を進めていく中で意見を変えていけるような対話の場となるソーシャルメディア作りに取り組んでいます。今はまだ試行錯誤の段階で、人種や銃規制、難民問題、イスラムとテロとの関係といったテーマについて、この対話型ソーシャルメディアの試みをスタートさせています。
私も以下の投稿で、相互理解を促すアイデアについて提案させていただきました。
テロをなくすにはどうすれば良いのか?根本の原因から解決する一つのアイデア
ゴニム氏のアイデアに私も賛成ですし、このように相互理解が進む試みがもっと世の中に広まっていけばと思います。そして、同氏の試みが成功し、相互理解が促進され、世の中からテロや戦争が無くなることを切に願っています。